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小説置き場。更新は凄く気まぐれ。
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「それが君の、サイゴの願い?」









母様、と呟く主人の声で目を覚ます。

フェデラル・ラテラットは顔を上げた。
目に入ったのはシーツの白と、それが返す眩しい光。
ベッドの脇でそのまま眠りこけた彼の頭はなおも覚醒しきらず、額を押さえつつも寝具の頭を見やった。

ーー先程の声は、ただの夢だったのだろうか。
相も変わらず、スバルは意識を戻した様子もない。
額に触れた手が、冷える。体が微かに凍えるのは、何も羽織ってなかったからだ。
ふと視線を外すと、自分とは反対側で、同じように眠りこける凛鈴の姿が見えた。
ただ、その様が彼にしては珍しくだらしなかったーーまるで崩れ倒れるかのようにそこに落ち着いたかのようだった。
意識がなくなるその直前まで、向かいでパチパチと火花がはぜていたのが目に焼き付いていた。
おそらく凛鈴は、夜通し主人の治療に当たっていたのだろう。

フェデラルは再び、スバルに注目を移す。白い顔に、起きる気配はない。
ーー呼び起こされるように、昔のことが頭に浮かぶ。とても幻想的な雪の日のことだ。

「ーーったくよォ……」

凛鈴が起きていれば、ここで確かな言葉をかけてくれるのだが、生憎やつれたあの様である。
自分では冷静な判断が出来ないことは百も承知だった。彼女からぴくりとも、息遣いの気配すら感じられないのは自身の気のせいかと思ったが、彼はすぐにそれが事実かそうでないのか分からなくなってしまう。


『感情に取り付かれるからだ』

「……ッ」

頭を振り切ったそんな時、キィ、と金が擦れるのが聞こえた。

「フェデラル。入りますわよ」

聞き慣れたその声は、相変わらず感情などでは揺るがぬそれだ。

「……あぁ」

カツン、とかかとが軽い音を立てる。見上げるとそこにリアゼムが並んでいた。
彼女は一瞬フェデラルと目を合わしたが、そのまますぐにスバルを見やった。やはり、表情は正にも負にも傾かない。
しかしすぐに、その目はスバルから外れてその奥、フェデラルの向かいの、凛鈴を映していた。

「起きませんのね」

そう言いつつ、彼女は目を細める。
毛布に頭を垂れた黒髪の彼は、赤い瞳に眠り顔で映される。
それは決して安らかとは言えぬ、疲労に取りつかれた顔に見えた。

「お嬢の手当てに自分の電気ぜーんぶ使いきりやがった。カラッポだぜ? こっちのが重症だ」
「でしょうね。……しかし、彼を診せに連れていくこともできません」

今屋敷を空ければ、誰が主人の身を守れるというのだろうか。誰も守れまい。
リアゼムは目を伏せる。

「悪かった」
「何がです?」
「俺が護衛を失敗した。あるまじきことだろ」
「そうですわね」




―――――――――――――

「言ったろう? 夢物語じゃ済まさないーーって」



(途中)

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