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小説置き場。更新は凄く気まぐれ。
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他の賑やかさとは対照的に、そこは何も置かれていないスペースが広がっており、少しの静けさがあった。
わずかに離れたところから聞こえてくる高貴な笑い声等が、同じ催し会場なのにまるで別の場所にいるかのような感覚にさせる。
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扉のような形の格子をした大きなガラス窓が、いくつも壁に連ねられている。
透明な板を隔てて覗く風景は暗黒で、輝かしい屋内とは対照的だ。
高い天井と、そこから釣り下げられたいくつもの照明に照らされた下――いくつものテーブルとずらりと並べられた数多の料理と、そしてそれにも負けず劣らずの数のポケモン達。
そこは、賑やかできらびやかであった。
方々から聞こえる談笑は無邪気な子供たちが上げるようなそれではなく、慎ましく、品を備えた笑いだ。
振舞いから会話まで、気品をこれでもかと醸し出した者達がそこに集結している。
時刻は既に日も落ち、まさに夜の宴という言葉がふさわしいだろう。

「さぁてぇとぉ~。スバル嬢はぁ、どこだろぉねえ」

ムースはそう言って地に降り立つ。
まるで楽しんでいる化のような口ぶりで辺りを見渡す。

しかし、そう簡単に見つかるわけはない。
ましてや、スバルはフォニアにつれられて別の森に移動してしまったのだから、この森には絶対にいない。
しかし、そんなことムースが知る筈がなく……。


「……って言うかー、スバル嬢帰ってくるのぉ待ってた方がぁ、早いのにねぇ♪」

そう一人合点し、ここにはいないねぇ、と早々と屋敷に戻ろうか考えていた、その時。

「あら、あなたフォイリヒとよくいるマリルリじゃない」
「あー……。エトかぁ」

近くの木陰から現れたミカルゲに呟いて、クスクス笑う。
会話中に出てきたアブソルは居らず、エトヴァスひとりのようだった。

「ちょうどいいわ、フォイリヒが風邪でね。あなた強いようだけれど、フォイリヒに止められていて手が出せなくて」

彼女はそう怪しく微笑むと瞬時にシャドーボールを打つ。
もちろん、ムースがそれを避けるのは容易であり、かわして直後に笑ってみせる。

「アハハ♪ つまりぃ、ぼくに相手しろってぇこと?」
「そうなるわね。まあ、暇潰しになればいいけれど」

彼女も不適に微笑み挑発するようにぼやく。
ムースとしては、主探しよりもこちらのほうが面白そうだと感じたよう。

「ハハ、別にいいけどぉ? 雑魚の相手ぇくらい……なんともないしぃ?」

いかにも先程のエトヴァスの挑発を上回る発言を口にした。





シャドーボールが放たれて、野生の
ガーメイルが倒れる。
それをただ唖然と見ていたユリウスに、クサリがつい、と顎で指示する。

「これでいいだろう……行くぞ」

クサリが敵を払ってユリウスが後ろで控える。
さっきからこの調子で森を進んでいる。

「あ、うん……」

そんな状態なので、迷惑はかけてられないなと思い、すぐさま行動に移す。
クサリは常に自分のことを待っていてくれるのだから。

「す、すごいね……もう、何十も倒してる、よ」
「いや、私は別に大したことはしていないが……」

彼女の今までの動きに感心するも、彼女は不思議そうに首を傾げる。
その行動が逆にユリウスには不思議に思えてしまう。

「そ、そんなこと、ない……よ? 僕、には……無理だから」

恐る恐る、素直に自分の感想を口にした。
クサリはというと、やはり何かしっくりこないかのように顔をしかめている。
ユリウスはそれに何か悪いことを言ってしまったかと戸惑ってしまう。


……そんなわけで、沈黙というものはすぐにやってきてしまう。

さっきから何度かこの調子だったが、次々に現れる野生ポケモンにすぐ破られていた。
しかし今回はそう都合よく現れそうにない……別に野生ポケモンが出てきてほしいわけではないけれど。

(ど、どうしよう……話、思い付かないし……)

目的である咲羽の話でもしようかと思ったが、クサリと咲羽の接点もよくわからない。
前に何か言ってたかな、と考えながら足を進める。
屋敷中に鐘の音が鳴り響いて……――



「――それで、これはどういうことですの?」

リアゼムの苛立ちを隠せない発言が、容赦なくマリルリに襲い掛かる。
彼女は少々くちゃくちゃになった紙切れをぴんっ、と伸ばして少年の前につきだす。
そこにはスバルの筆圧で例の言葉が書かれている。

「何……ってぇ、おつかい、でしょお? やだな~リア様ぁ、そんなこともわかんないのぉ?」

しかし少年はこれといった反省の色も見せず……逆にクスクスわらいだす。

「貴方は……」

これはいつものことなのだが――さすがに今の状況でこうだったために、リアゼムの怒りに火が付く。
次には彼女の目付きが鋭く変わる。

「貴様……スバルに何の補助も付けずに出してその態度は何だ!?」

途端に、彼女の口調はそれまでのものと比べようのないきついものに豹変する。

(あ、そっか。リア様、怒ったら人格かわっちゃうんだっけ~……)

などと、怒られているにもかかわらず少年は思ってしまう。

「だってぇ、ぼく遊びたかったしぃ? スバル嬢、外に出たいって言ってたしぃ?」
「遊びたいだと!?」
「……あ~♪」

つい本当のことが口から滑って、しかもリアゼムはそれを逃さなかった。
その理不尽な言い訳は、もう彼女の怒りを高めるだけで。

「ムース! 貴様!」

怒りのあまり、彼女は能力を発動。
部屋中に突如無数の針が出現する。
そしてその全てが少年――ムースに向けられており。

「もーう、そんなに怒んなくたってえ、いいでしょお?」

その一言はリアゼムの何か――多分怒りを悪化させるもの――をすっぱり切ってしまう。
それに瞬時に感付き、ムースは部屋から逃れようと――

「逃げるなムース!!」

しかしやはりリアゼムがやすやす見過ごすわけがない。
それどころか人格の豹変した彼女は能力の針でムースの背を狙う始末。
怒った時の彼女の恐ろしさは、スバル以外に誰にも止められない。

ドスッ!!

それは確かに刺が 刺さった時の音に違いはなかった。
しかしそれは、生き物に触れたものではないと直感する。

「……逃げたか」

針は全て、彼がさっきまでいた場所の床に突き刺さっていた。
彼の姿は何一つとなかった。
どこにもいないけれど、どこからか声――音量的にはさっきムースがいた場所と変わらない――がする。

『だぁーからあ、ぼくが探せばぁいいんでしょ~? 分かってるよおv』

彼は姿がないながらも語りかける。
おそらくこれはムースの能力だろう。
寸瞬の間に水蒸気の中に姿をくらましたのだ。
……と、怒りに染まりながらも冷静にリアゼムは思考する。
こんなことで冷静さまで失っては、彼女もスバルの直属護衛などやっていられない。

『バイチャオ~リア様ぁ♪ ぼくがすぐに見つけてきてやるよぉ』

姿がないにしてもクスクスした笑いはしっかり聞こえており、彼女は溜め息をもらす。
スバルが消えた原因はこいつだというのに……呆れてものもの言えない。
しかしすぐに嘲笑いは消えて、部屋には再びしんとした時間が流れる。
きっともう出ていったのであろう。
そう思い、彼女はひとまず部屋を後にした。




「でー……スバル嬢はきっとまだ森かなぁ」

例のムースはというと、屋敷から少し離れた場所で姿を現し、ふよふよと宙を漂っていた。
彼の真下に広がるのは森――野生のポケモンが多く危険な場所だ。
クルリと後ろを振り向いて見れば、100メートル先には崖の上に屋敷がある。

(この距離ならー……そう遠くにはいけないねぇ)

とりあえず、的をこの辺りに絞ってスバルを探すことにする。
深い新緑の森に、青色は溶け込むように降りていった。






「い、たた……吃驚したぁ……」

落下の衝撃に頭を押さえる。
別に頭を打ったわけではないが、自然とそうなってしまうものだ。
それはさておき、ユリウスはゆっくり視線を上に向ける。
少し上げただけでは、見えるのは土壁。
もう少し上げてみる、と――

「た、高いよ……これじゃ、出られない」

首が痛くなるくらいまで上げて、やっと穴を発見する。
ざっと見、身長の3か4は倍の深さだろう。
ぽっかり空いたその向こうで、木の葉が揺れているのが確認できる。

「……どうしよう」

呟いたところで、誰かが助けてくれるわけでも無し。
サイコキネシスで自分を持ち上げようかと考えたが、今は体力も消耗している。
地道に助けを待つしかない。


「……はあ……誰か、来ない、かな……」
「お前……ユリウス、だったか?」

しかしタイミングよく、確かに声が降ってきた。
どうも聞き覚えのあるそれに、恐れと期待を抱きながら見上げる――と。

「あ……クサリ、さん?」

その漆黒の姿には見覚えがある。
アチーヴにいたグラエナのリーダーに間違いなかった。

「そうだが、どうかしたか? そんな場所で」
「……えっと……」

どう答えるべきか戸惑っていると、先にクサリが問いかける。

「ところでお前、咲羽を見なかったか?」
「え、あ……舞羽の弟の、咲ちゃん?」
「仕事で一緒だったんだがどこかに行ってしまったようで……見かけなかったか?」
「え、う、ううん……見てない、よ……」

見上げながら首を揺する。
それを確認して、クサリは呆れたように一息吐く。

「で、なぜお前はそこにいる?」
「……あの……」



とりあえず手短に説明すると、彼女は呆れつつも脱出を手伝ってくれた。
まわりに付いた土を払って、ユリウスはペコリと頭を下げる。

「あ、ありがとう……ゴメンね」
「いや、気にすることでもないだろう。お前も大変だな……迷った挙げ句、落とし穴なんて……」
「あぅ……だ、だって、その」

全て話してしまったためにクサリに悉く呆れられてしまったよう。
しかし、言い訳など思い付きそうにない。

「え、えっと……」
「……まあ、いい。それより、変わりといってはなんだが、咲羽を探すのを手伝ってくれないか?」
「え?」

まるで思い付きのように言われたので、理解処理が遅かった。
それに気付いて、クサリは気遣うように再び呟く。

「咲羽はもともとリリーフのメンバーだろう? なら、お前もよく知っている……」
「う、うん」
「なら、問題ないと思うが……それにお前、ひとりだとまた迷うだろう?」
「……えっと……」

確かに。
出来れば早く帰りたいが、ひとりだとクサリのいうとおりになるだろう。
それに、またドジでも起こしてしまった時にどうすればいいかわからない。
そういう面から考えて、クサリと行動することに何の欠点もない。

「それじゃあ、一緒に行っていいかな?」

誘ってきたのはクサリだが、それでも尋ねてしまう。
怪訝そうに首を傾げているユリウスを見て、彼女は一度目を伏せ、

「そっちの方が私も助かる。……行くぞ」
「あ、う、うん……!」

確認するなりクサリは早足に進み出す。
彼女も早く帰りたいのは山々なのだ。
そんな彼女をパタパタと追いかけて隣につくと、二人は森を進み始めた。


多くの出来事が交わろうとしているよう……――。
それからだいぶ走った頃……ようやくミミロップが止まってくれて、スバルは辺りを見回した。

「はぁ、はぁ……ここは……?」

息が切れながらも、目の前の少女に尋ねる。
しかし彼女は静かに! と言いたげにスバルの前で手を制止させる。

ここはさっきまでいた森とは違う感じがする。
直感的に、だけれど。
スバルが見たところ、ここは洞窟のようだった。
上下左右に見える茶色い岩肌。
洞窟の入り口付近には多くの木が蜘蛛の巣のように葉を広げている。
きっとここならカクレオンににも見つからないだろう。

(けど……いいのかな?)

スバルはカゴの中をごそごそと探る。
そして、手に触れたまるっこいひんやりしたものを取り出した。

それはさっきのめざめ石。
絶対落とさないように、スバルはカゴの中にしまっていたのだった。
これはミミロップのもの。
しかし、同時にお金を払っていない、いわば万引き商品でもあった。

「うん……オッケー! ここまで走ったら大丈夫よ」

さっきまで遠くをうかがっていたミミロップがクルリと振り返る。
それにスバルは、反射的にめざめ石を再びカゴに隠してしまう。

「あ、そーいえば今さらだけど、アタシはフォニア♪ プロのドロボーだから!」

フォニアというミミロップはいたずらっぽく微笑む。
スバルの不審な行動には気づかなかったようだ。
全力で走ったためにめざめ石のことは忘れているような感じだ。

「しっかし、アンタもあんな森で何してたの? あんなところを通るポケモンもそんなにいないと思うんだけど」
「えっ?」

しかし、代わりに出てきた言葉に一瞬スバルはどきりとする。
そういえばあの森の近くには自分の屋敷以外には何もなかったような……。
それに屋敷に近付くなんて、普通のポケモンにはいけないことだ。
このままでは、正体がばれてしまう……!

「で、アンタの名前は? アタシが教えたんだからアンタも言っていいんじゃない?」

そしてこの発言は、更にスバルの頭をパニックにさせる。
スバルという名のブースター……それだけで、自分の正体は簡単に見破られてしまう。
しかし何も言わないとかえって怪しく見えるし……。
どうしよう。ここでどう言えばいいかアドバイスしてくれる護衛たちは今いないのだ。
私が考えるしか……!

「わ、私は、その……うっ、ケホッ、ゴホゴホッ!」
「え、え? え!? ちょっと、どうかした!?」

しかし、このタイミングで名前の代わりに出てきた咳。
とは言っても、それは風邪を引いたときに出るあれとは違う、もっと酷いようなもの。
突然のそれにスバルは小さくしゃがみこみ、それをフォニアが慌てて覗き込む。
きっとさっき走ったのが原因だろう。
スバルの体はわけあって弱いのだ。

「ごめんなさい。さっき走った、から……」

少しおさまった隙をついて、申し訳なさそうに顔をあげる。
しかしおかげで名乗ることを中断できたようだ。

「そ、そう? ……って、それアタシのせい!?」
「い、いえ違うんです! フォニアさんは悪く……」
「やばい……!! アタシドロボーで悪いことやっちゃったよ!?」

あまりのことにフォニアは戸惑い、スバルはそれを宥めようとするも彼女の耳には何一つ届かない。
というかドロボーだってちゃんとした悪いことですよフォニアさん。
スバルはそれにまたもひとりで思考を巡らす。

(こんなときどうすれば……えーと、ええと、えっと……あ!)

迷いの末、スバルはひとつの結論に行きつく。

「それじゃあフォニアさん! ひとつお願いしてもよろしいですか?」
「へ? あ、お、お願い?」

はいそうです! と咳が完全に収まったので立ち上がる。
元気を取り戻した声で、スバルはフォニアの目を見て一言。

「私の買い物に付き添ってくれませんか?」

その案は、今護衛を引き連れていない彼女にとっては悪いともいえないものだった。
フォニアはどこか、ポカンとした表情を浮かべている。

「ア、アタシが? 何でまたそんな?」
「えっと……私、街がどこかわからなくて……それであの森で迷ってたんです!」

咄嗟に思い付いた言い訳をはっきり言うことで、さもそれらしく見せる。
それにフォニアは少し考えていたが、

「ま、別に良いわよ? アタシがここまで連れてきちゃったんだしね!」

さすがに彼女も少しは申し訳ないと感じたのだろう。
まるで退屈しのぎ、というように了承する。

「わあ、ありがとうございます♪ 私、ひとりじゃ心細くって……」

スバルはそれを確認すると、目を輝かせ花の咲いたような笑顔で感謝する。
スバルお得意のフレンドリーさあってのものであるが……。

(あれ? なーんか、誰かに似てる気がするような……)

フォニアの中にはなにかが浮かぶ。
どうも知っている誰かにその顔が似て見えたが……気にしないことにする。


とりあえずスバルは買い物に行きたい、そして走れない、また自分たちはカクレオンに追われている……。

「じゃ、さっそく行くわよ。早くしなきゃカクレオンに見つかるしね」

これにより、しばらくふたりの少女は行動を共にすることとなる。





「あぅ……どうしよう。迷った、のかな?」

そしてまた、これはふたりと同時刻。
場所はそう遠くもない。

そこも同じく森で、スバルとフォニアがいるところとはまた別の、はりつめたような空気が漂う。
緊迫感、とでもいおうか。
ここは野生のポケモンが多いと言われている。


そして、そんな森で迷っているのはエーフィ――ユリウスなのであるが。


「うう……やっぱりひとりで依頼なんて……無理、だよ」

普段ブライと一緒に依頼をこなしているユリウスにとっては、ひとりで帰ることすら容易でない。
現にそのせいで、この複雑な森で迷ってしまったのだから。

しかし不幸はそれだけでなく――

「どっちに行ったら、いい――」

しかし言葉はそこで詰まる。
何故かここからの出来事がスローモーションで行われた気がしてしまう。

一歩踏み出した地面がぐしゃりと沈み、その突然にあっけなく体勢が崩れる。
沈んだ地面はというと、つま先のほうからバラバラと崩れて、何故か下の方へと落ちていく。
そして、崩れて出てきたふかーい穴――世間一般では落とし穴と呼んでいるもので。
その深さに一瞬体を縮めるが、バランスの取れないからだは何をどうすることもできず……。

「ひゃああぁぁぁぁ!?」

地中に空いた穴に、その体は簡単に落ちていく。
ドン! と底に着いた音がして、直後。


ゴォーーーン……。


それはスバルの屋敷――ここから屋敷まで遠くはなかった――の鐘の音で、一回だけ鳴り響いたそれは昼の一時を示していた。

そのドジは、ユリウスを深く下へと消してしまった。
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