小説置き場。更新は凄く気まぐれ。
それからだいぶ走った頃……ようやくミミロップが止まってくれて、スバルは辺りを見回した。
「はぁ、はぁ……ここは……?」
息が切れながらも、目の前の少女に尋ねる。
しかし彼女は静かに! と言いたげにスバルの前で手を制止させる。
ここはさっきまでいた森とは違う感じがする。
直感的に、だけれど。
スバルが見たところ、ここは洞窟のようだった。
上下左右に見える茶色い岩肌。
洞窟の入り口付近には多くの木が蜘蛛の巣のように葉を広げている。
きっとここならカクレオンににも見つからないだろう。
(けど……いいのかな?)
スバルはカゴの中をごそごそと探る。
そして、手に触れたまるっこいひんやりしたものを取り出した。
それはさっきのめざめ石。
絶対落とさないように、スバルはカゴの中にしまっていたのだった。
これはミミロップのもの。
しかし、同時にお金を払っていない、いわば万引き商品でもあった。
「うん……オッケー! ここまで走ったら大丈夫よ」
さっきまで遠くをうかがっていたミミロップがクルリと振り返る。
それにスバルは、反射的にめざめ石を再びカゴに隠してしまう。
「あ、そーいえば今さらだけど、アタシはフォニア♪ プロのドロボーだから!」
フォニアというミミロップはいたずらっぽく微笑む。
スバルの不審な行動には気づかなかったようだ。
全力で走ったためにめざめ石のことは忘れているような感じだ。
「しっかし、アンタもあんな森で何してたの? あんなところを通るポケモンもそんなにいないと思うんだけど」
「えっ?」
しかし、代わりに出てきた言葉に一瞬スバルはどきりとする。
そういえばあの森の近くには自分の屋敷以外には何もなかったような……。
それに屋敷に近付くなんて、普通のポケモンにはいけないことだ。
このままでは、正体がばれてしまう……!
「で、アンタの名前は? アタシが教えたんだからアンタも言っていいんじゃない?」
そしてこの発言は、更にスバルの頭をパニックにさせる。
スバルという名のブースター……それだけで、自分の正体は簡単に見破られてしまう。
しかし何も言わないとかえって怪しく見えるし……。
どうしよう。ここでどう言えばいいかアドバイスしてくれる護衛たちは今いないのだ。
私が考えるしか……!
「わ、私は、その……うっ、ケホッ、ゴホゴホッ!」
「え、え? え!? ちょっと、どうかした!?」
しかし、このタイミングで名前の代わりに出てきた咳。
とは言っても、それは風邪を引いたときに出るあれとは違う、もっと酷いようなもの。
突然のそれにスバルは小さくしゃがみこみ、それをフォニアが慌てて覗き込む。
きっとさっき走ったのが原因だろう。
スバルの体はわけあって弱いのだ。
「ごめんなさい。さっき走った、から……」
少しおさまった隙をついて、申し訳なさそうに顔をあげる。
しかしおかげで名乗ることを中断できたようだ。
「そ、そう? ……って、それアタシのせい!?」
「い、いえ違うんです! フォニアさんは悪く……」
「やばい……!! アタシドロボーで悪いことやっちゃったよ!?」
あまりのことにフォニアは戸惑い、スバルはそれを宥めようとするも彼女の耳には何一つ届かない。
というかドロボーだってちゃんとした悪いことですよフォニアさん。
スバルはそれにまたもひとりで思考を巡らす。
(こんなときどうすれば……えーと、ええと、えっと……あ!)
迷いの末、スバルはひとつの結論に行きつく。
「それじゃあフォニアさん! ひとつお願いしてもよろしいですか?」
「へ? あ、お、お願い?」
はいそうです! と咳が完全に収まったので立ち上がる。
元気を取り戻した声で、スバルはフォニアの目を見て一言。
「私の買い物に付き添ってくれませんか?」
その案は、今護衛を引き連れていない彼女にとっては悪いともいえないものだった。
フォニアはどこか、ポカンとした表情を浮かべている。
「ア、アタシが? 何でまたそんな?」
「えっと……私、街がどこかわからなくて……それであの森で迷ってたんです!」
咄嗟に思い付いた言い訳をはっきり言うことで、さもそれらしく見せる。
それにフォニアは少し考えていたが、
「ま、別に良いわよ? アタシがここまで連れてきちゃったんだしね!」
さすがに彼女も少しは申し訳ないと感じたのだろう。
まるで退屈しのぎ、というように了承する。
「わあ、ありがとうございます♪ 私、ひとりじゃ心細くって……」
スバルはそれを確認すると、目を輝かせ花の咲いたような笑顔で感謝する。
スバルお得意のフレンドリーさあってのものであるが……。
(あれ? なーんか、誰かに似てる気がするような……)
フォニアの中にはなにかが浮かぶ。
どうも知っている誰かにその顔が似て見えたが……気にしないことにする。
とりあえずスバルは買い物に行きたい、そして走れない、また自分たちはカクレオンに追われている……。
「じゃ、さっそく行くわよ。早くしなきゃカクレオンに見つかるしね」
これにより、しばらくふたりの少女は行動を共にすることとなる。
「あぅ……どうしよう。迷った、のかな?」
そしてまた、これはふたりと同時刻。
場所はそう遠くもない。
そこも同じく森で、スバルとフォニアがいるところとはまた別の、はりつめたような空気が漂う。
緊迫感、とでもいおうか。
ここは野生のポケモンが多いと言われている。
そして、そんな森で迷っているのはエーフィ――ユリウスなのであるが。
「うう……やっぱりひとりで依頼なんて……無理、だよ」
普段ブライと一緒に依頼をこなしているユリウスにとっては、ひとりで帰ることすら容易でない。
現にそのせいで、この複雑な森で迷ってしまったのだから。
しかし不幸はそれだけでなく――
「どっちに行ったら、いい――」
しかし言葉はそこで詰まる。
何故かここからの出来事がスローモーションで行われた気がしてしまう。
一歩踏み出した地面がぐしゃりと沈み、その突然にあっけなく体勢が崩れる。
沈んだ地面はというと、つま先のほうからバラバラと崩れて、何故か下の方へと落ちていく。
そして、崩れて出てきたふかーい穴――世間一般では落とし穴と呼んでいるもので。
その深さに一瞬体を縮めるが、バランスの取れないからだは何をどうすることもできず……。
「ひゃああぁぁぁぁ!?」
地中に空いた穴に、その体は簡単に落ちていく。
ドン! と底に着いた音がして、直後。
ゴォーーーン……。
それはスバルの屋敷――ここから屋敷まで遠くはなかった――の鐘の音で、一回だけ鳴り響いたそれは昼の一時を示していた。
そのドジは、ユリウスを深く下へと消してしまった。
「はぁ、はぁ……ここは……?」
息が切れながらも、目の前の少女に尋ねる。
しかし彼女は静かに! と言いたげにスバルの前で手を制止させる。
ここはさっきまでいた森とは違う感じがする。
直感的に、だけれど。
スバルが見たところ、ここは洞窟のようだった。
上下左右に見える茶色い岩肌。
洞窟の入り口付近には多くの木が蜘蛛の巣のように葉を広げている。
きっとここならカクレオンににも見つからないだろう。
(けど……いいのかな?)
スバルはカゴの中をごそごそと探る。
そして、手に触れたまるっこいひんやりしたものを取り出した。
それはさっきのめざめ石。
絶対落とさないように、スバルはカゴの中にしまっていたのだった。
これはミミロップのもの。
しかし、同時にお金を払っていない、いわば万引き商品でもあった。
「うん……オッケー! ここまで走ったら大丈夫よ」
さっきまで遠くをうかがっていたミミロップがクルリと振り返る。
それにスバルは、反射的にめざめ石を再びカゴに隠してしまう。
「あ、そーいえば今さらだけど、アタシはフォニア♪ プロのドロボーだから!」
フォニアというミミロップはいたずらっぽく微笑む。
スバルの不審な行動には気づかなかったようだ。
全力で走ったためにめざめ石のことは忘れているような感じだ。
「しっかし、アンタもあんな森で何してたの? あんなところを通るポケモンもそんなにいないと思うんだけど」
「えっ?」
しかし、代わりに出てきた言葉に一瞬スバルはどきりとする。
そういえばあの森の近くには自分の屋敷以外には何もなかったような……。
それに屋敷に近付くなんて、普通のポケモンにはいけないことだ。
このままでは、正体がばれてしまう……!
「で、アンタの名前は? アタシが教えたんだからアンタも言っていいんじゃない?」
そしてこの発言は、更にスバルの頭をパニックにさせる。
スバルという名のブースター……それだけで、自分の正体は簡単に見破られてしまう。
しかし何も言わないとかえって怪しく見えるし……。
どうしよう。ここでどう言えばいいかアドバイスしてくれる護衛たちは今いないのだ。
私が考えるしか……!
「わ、私は、その……うっ、ケホッ、ゴホゴホッ!」
「え、え? え!? ちょっと、どうかした!?」
しかし、このタイミングで名前の代わりに出てきた咳。
とは言っても、それは風邪を引いたときに出るあれとは違う、もっと酷いようなもの。
突然のそれにスバルは小さくしゃがみこみ、それをフォニアが慌てて覗き込む。
きっとさっき走ったのが原因だろう。
スバルの体はわけあって弱いのだ。
「ごめんなさい。さっき走った、から……」
少しおさまった隙をついて、申し訳なさそうに顔をあげる。
しかしおかげで名乗ることを中断できたようだ。
「そ、そう? ……って、それアタシのせい!?」
「い、いえ違うんです! フォニアさんは悪く……」
「やばい……!! アタシドロボーで悪いことやっちゃったよ!?」
あまりのことにフォニアは戸惑い、スバルはそれを宥めようとするも彼女の耳には何一つ届かない。
というかドロボーだってちゃんとした悪いことですよフォニアさん。
スバルはそれにまたもひとりで思考を巡らす。
(こんなときどうすれば……えーと、ええと、えっと……あ!)
迷いの末、スバルはひとつの結論に行きつく。
「それじゃあフォニアさん! ひとつお願いしてもよろしいですか?」
「へ? あ、お、お願い?」
はいそうです! と咳が完全に収まったので立ち上がる。
元気を取り戻した声で、スバルはフォニアの目を見て一言。
「私の買い物に付き添ってくれませんか?」
その案は、今護衛を引き連れていない彼女にとっては悪いともいえないものだった。
フォニアはどこか、ポカンとした表情を浮かべている。
「ア、アタシが? 何でまたそんな?」
「えっと……私、街がどこかわからなくて……それであの森で迷ってたんです!」
咄嗟に思い付いた言い訳をはっきり言うことで、さもそれらしく見せる。
それにフォニアは少し考えていたが、
「ま、別に良いわよ? アタシがここまで連れてきちゃったんだしね!」
さすがに彼女も少しは申し訳ないと感じたのだろう。
まるで退屈しのぎ、というように了承する。
「わあ、ありがとうございます♪ 私、ひとりじゃ心細くって……」
スバルはそれを確認すると、目を輝かせ花の咲いたような笑顔で感謝する。
スバルお得意のフレンドリーさあってのものであるが……。
(あれ? なーんか、誰かに似てる気がするような……)
フォニアの中にはなにかが浮かぶ。
どうも知っている誰かにその顔が似て見えたが……気にしないことにする。
とりあえずスバルは買い物に行きたい、そして走れない、また自分たちはカクレオンに追われている……。
「じゃ、さっそく行くわよ。早くしなきゃカクレオンに見つかるしね」
これにより、しばらくふたりの少女は行動を共にすることとなる。
「あぅ……どうしよう。迷った、のかな?」
そしてまた、これはふたりと同時刻。
場所はそう遠くもない。
そこも同じく森で、スバルとフォニアがいるところとはまた別の、はりつめたような空気が漂う。
緊迫感、とでもいおうか。
ここは野生のポケモンが多いと言われている。
そして、そんな森で迷っているのはエーフィ――ユリウスなのであるが。
「うう……やっぱりひとりで依頼なんて……無理、だよ」
普段ブライと一緒に依頼をこなしているユリウスにとっては、ひとりで帰ることすら容易でない。
現にそのせいで、この複雑な森で迷ってしまったのだから。
しかし不幸はそれだけでなく――
「どっちに行ったら、いい――」
しかし言葉はそこで詰まる。
何故かここからの出来事がスローモーションで行われた気がしてしまう。
一歩踏み出した地面がぐしゃりと沈み、その突然にあっけなく体勢が崩れる。
沈んだ地面はというと、つま先のほうからバラバラと崩れて、何故か下の方へと落ちていく。
そして、崩れて出てきたふかーい穴――世間一般では落とし穴と呼んでいるもので。
その深さに一瞬体を縮めるが、バランスの取れないからだは何をどうすることもできず……。
「ひゃああぁぁぁぁ!?」
地中に空いた穴に、その体は簡単に落ちていく。
ドン! と底に着いた音がして、直後。
ゴォーーーン……。
それはスバルの屋敷――ここから屋敷まで遠くはなかった――の鐘の音で、一回だけ鳴り響いたそれは昼の一時を示していた。
そのドジは、ユリウスを深く下へと消してしまった。
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