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小説置き場。更新は凄く気まぐれ。
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屋敷中に鐘の音が鳴り響いて……――



「――それで、これはどういうことですの?」

リアゼムの苛立ちを隠せない発言が、容赦なくマリルリに襲い掛かる。
彼女は少々くちゃくちゃになった紙切れをぴんっ、と伸ばして少年の前につきだす。
そこにはスバルの筆圧で例の言葉が書かれている。

「何……ってぇ、おつかい、でしょお? やだな~リア様ぁ、そんなこともわかんないのぉ?」

しかし少年はこれといった反省の色も見せず……逆にクスクスわらいだす。

「貴方は……」

これはいつものことなのだが――さすがに今の状況でこうだったために、リアゼムの怒りに火が付く。
次には彼女の目付きが鋭く変わる。

「貴様……スバルに何の補助も付けずに出してその態度は何だ!?」

途端に、彼女の口調はそれまでのものと比べようのないきついものに豹変する。

(あ、そっか。リア様、怒ったら人格かわっちゃうんだっけ~……)

などと、怒られているにもかかわらず少年は思ってしまう。

「だってぇ、ぼく遊びたかったしぃ? スバル嬢、外に出たいって言ってたしぃ?」
「遊びたいだと!?」
「……あ~♪」

つい本当のことが口から滑って、しかもリアゼムはそれを逃さなかった。
その理不尽な言い訳は、もう彼女の怒りを高めるだけで。

「ムース! 貴様!」

怒りのあまり、彼女は能力を発動。
部屋中に突如無数の針が出現する。
そしてその全てが少年――ムースに向けられており。

「もーう、そんなに怒んなくたってえ、いいでしょお?」

その一言はリアゼムの何か――多分怒りを悪化させるもの――をすっぱり切ってしまう。
それに瞬時に感付き、ムースは部屋から逃れようと――

「逃げるなムース!!」

しかしやはりリアゼムがやすやす見過ごすわけがない。
それどころか人格の豹変した彼女は能力の針でムースの背を狙う始末。
怒った時の彼女の恐ろしさは、スバル以外に誰にも止められない。

ドスッ!!

それは確かに刺が 刺さった時の音に違いはなかった。
しかしそれは、生き物に触れたものではないと直感する。

「……逃げたか」

針は全て、彼がさっきまでいた場所の床に突き刺さっていた。
彼の姿は何一つとなかった。
どこにもいないけれど、どこからか声――音量的にはさっきムースがいた場所と変わらない――がする。

『だぁーからあ、ぼくが探せばぁいいんでしょ~? 分かってるよおv』

彼は姿がないながらも語りかける。
おそらくこれはムースの能力だろう。
寸瞬の間に水蒸気の中に姿をくらましたのだ。
……と、怒りに染まりながらも冷静にリアゼムは思考する。
こんなことで冷静さまで失っては、彼女もスバルの直属護衛などやっていられない。

『バイチャオ~リア様ぁ♪ ぼくがすぐに見つけてきてやるよぉ』

姿がないにしてもクスクスした笑いはしっかり聞こえており、彼女は溜め息をもらす。
スバルが消えた原因はこいつだというのに……呆れてものもの言えない。
しかしすぐに嘲笑いは消えて、部屋には再びしんとした時間が流れる。
きっともう出ていったのであろう。
そう思い、彼女はひとまず部屋を後にした。




「でー……スバル嬢はきっとまだ森かなぁ」

例のムースはというと、屋敷から少し離れた場所で姿を現し、ふよふよと宙を漂っていた。
彼の真下に広がるのは森――野生のポケモンが多く危険な場所だ。
クルリと後ろを振り向いて見れば、100メートル先には崖の上に屋敷がある。

(この距離ならー……そう遠くにはいけないねぇ)

とりあえず、的をこの辺りに絞ってスバルを探すことにする。
深い新緑の森に、青色は溶け込むように降りていった。






「い、たた……吃驚したぁ……」

落下の衝撃に頭を押さえる。
別に頭を打ったわけではないが、自然とそうなってしまうものだ。
それはさておき、ユリウスはゆっくり視線を上に向ける。
少し上げただけでは、見えるのは土壁。
もう少し上げてみる、と――

「た、高いよ……これじゃ、出られない」

首が痛くなるくらいまで上げて、やっと穴を発見する。
ざっと見、身長の3か4は倍の深さだろう。
ぽっかり空いたその向こうで、木の葉が揺れているのが確認できる。

「……どうしよう」

呟いたところで、誰かが助けてくれるわけでも無し。
サイコキネシスで自分を持ち上げようかと考えたが、今は体力も消耗している。
地道に助けを待つしかない。


「……はあ……誰か、来ない、かな……」
「お前……ユリウス、だったか?」

しかしタイミングよく、確かに声が降ってきた。
どうも聞き覚えのあるそれに、恐れと期待を抱きながら見上げる――と。

「あ……クサリ、さん?」

その漆黒の姿には見覚えがある。
アチーヴにいたグラエナのリーダーに間違いなかった。

「そうだが、どうかしたか? そんな場所で」
「……えっと……」

どう答えるべきか戸惑っていると、先にクサリが問いかける。

「ところでお前、咲羽を見なかったか?」
「え、あ……舞羽の弟の、咲ちゃん?」
「仕事で一緒だったんだがどこかに行ってしまったようで……見かけなかったか?」
「え、う、ううん……見てない、よ……」

見上げながら首を揺する。
それを確認して、クサリは呆れたように一息吐く。

「で、なぜお前はそこにいる?」
「……あの……」



とりあえず手短に説明すると、彼女は呆れつつも脱出を手伝ってくれた。
まわりに付いた土を払って、ユリウスはペコリと頭を下げる。

「あ、ありがとう……ゴメンね」
「いや、気にすることでもないだろう。お前も大変だな……迷った挙げ句、落とし穴なんて……」
「あぅ……だ、だって、その」

全て話してしまったためにクサリに悉く呆れられてしまったよう。
しかし、言い訳など思い付きそうにない。

「え、えっと……」
「……まあ、いい。それより、変わりといってはなんだが、咲羽を探すのを手伝ってくれないか?」
「え?」

まるで思い付きのように言われたので、理解処理が遅かった。
それに気付いて、クサリは気遣うように再び呟く。

「咲羽はもともとリリーフのメンバーだろう? なら、お前もよく知っている……」
「う、うん」
「なら、問題ないと思うが……それにお前、ひとりだとまた迷うだろう?」
「……えっと……」

確かに。
出来れば早く帰りたいが、ひとりだとクサリのいうとおりになるだろう。
それに、またドジでも起こしてしまった時にどうすればいいかわからない。
そういう面から考えて、クサリと行動することに何の欠点もない。

「それじゃあ、一緒に行っていいかな?」

誘ってきたのはクサリだが、それでも尋ねてしまう。
怪訝そうに首を傾げているユリウスを見て、彼女は一度目を伏せ、

「そっちの方が私も助かる。……行くぞ」
「あ、う、うん……!」

確認するなりクサリは早足に進み出す。
彼女も早く帰りたいのは山々なのだ。
そんな彼女をパタパタと追いかけて隣につくと、二人は森を進み始めた。


多くの出来事が交わろうとしているよう……――。
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