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小説置き場。更新は凄く気まぐれ。
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「忘れるな、“ ”」






夢の中で、「私」を見た。
わたしは、私のことをどこか別のところから見ていたが、「ああ、夢だから」と一人納得した。

周りは靄がかかったように真っ白で何も見えない。
私は独り、膝を付いて涙を流している。
それはなんだか、崩れ落ちた様子にも見えた。

――“       ”、“       ”!

先の見えないその場所で、ひたすら手を伸ばす私。
喉が痛いくらい叫んで、必死に身を乗り出す。
わたしはなぜか直ぐ、その先に誰かがいて、そして私は動けないのだと分かった。
だからそこに近寄ることができずに手を伸ばす他ないのだと分かった。
夢だから、なぜだかすぐに分かるのだ。

――“       ”!

“誰か”を呼ぶ私の声は悲鳴が混ざって、ぐちゃぐちゃで聞こえたものじゃない。
私はまっすぐ一点に向かって何かを叫ぶ。
わたしは、こんなにも必死になれるものだったのだろうか。
そこにいる私は間違いなくわたしと同じだと分かるのに、わたしではない気さえした。

「……“       ”」

泣き叫ぶ私の声の中に、誰かの声が“私”を呼んだのが聞こえた。
私は僅かに表情を緩ませる。
何かを訴える私からは安堵の色すら見えるが、本当に微々たるものだった。
反響していた私の声が消えてしんとした頃、誰かの声はようやくはっきり聞こえた。

「――頼んだ、からな」

凛とした一言だった。
私の顔は茫然と目を見開き、やがて悲痛に歪んでいった。
わたしは私の見ている方を追ったが、やはり何も見えず、そしてその場にはしんとした時間が流れ出し、そこから再び声が聞こえることはなかった。
代わりに私の手はだらりと地に落ち、震えた眼差しがそこを見つめていた。
それが私と誰かとの別れだったのだと、わたしは知った。

――“       ”!!

叫びが靄を割いたように黒い亀裂が走ったかと思うと、そこから黒が溢れ出し、そのまま白い世界は暗転して私の姿も見えなくなった。
わたしはただその様を、どことも言えぬ所から見ていた。





目をさますと、暗闇の中にわたしは横たえていた。
天窓から伸びる淡い光が僅かに部屋を照らす、いつもの風景だった。
いつもの、風景。

「――……わたし」

本当に、いつもの風景はこんなものだっただろうか。
その時のわたしはおかしな夢の後で、変な考えが浮かんでいたのかもしれない。

「……わたし、は」

わたしはそのまま深く毛布の中に沈み、けれどすぐに眠れはしなかった。
なぜあの私は泣いていたのだろう。
結局あの後同じ夢は見なかったし、考えても意味はわからないだけで、また夢というのは儚いもので簡単に忘れ去られてあやふやになっていった。

けれどそれは決して忘れてはならないものな気がした。

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