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小説置き場。更新は凄く気まぐれ。
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――ああ、また違った。



「いい加減に、目を覚ましたらどうなの」

真っ黒な頭の中に反響したのは淡々とした冷たい声。
呆れと苛立ちを含んだ刺のある言い方はもう聞き慣れたものだった。
音を知覚した途端、それまで身から離れていた感覚が還って全身を冷たい風が撫でる。秋色の木々が立ち並び、フキヨセの風も冬のそれに近いなと感じる。
重い瞼をどうにか開く。青黒い空にいくつもの薄い雲が重なって渦を成していた。
ああ、丘の上で寝転んで、そのまま夜になってしまったんだ。
明るい夜なのは満月が近いからだろう。
まだはっきりしない頭と視界。眉間を押さえようとして重たい手を空中に持ち上げた。

「目を覚ませって言ってるのよ」

すぐ耳元で草が踏みつけられて弱い音を出す。
ぞっとして宙に手を静止させた。見ると、氷のように凍てつく感情の目と視線が重なった。
虚ろなままそれを見つめたけれど頭の中に入ってこなかった。
言の葉を繋ごうとした乾いた喉からは掠れた声しか出ず、相手は聞こえないといった顔をした。

「目を覚ましなさいと言ったの。わかったら、早くしなさい」

重力に引かれるがまま力無く落ちた腕に冷たい草の触れるのが妙に耳障りだった。
駄目だな、頭が寝ぼけてる。
動き出したばかりの思考はゆっくり加速しながら覚醒するが、当分はロースピードだろう。

「そうだな、ノティ様にも心配を――」
「だからいい加減にしてって言ってるじゃない」

やけに機嫌の悪い声がしてその主を見た。
夜の暗闇に、無愛想な冷徹顔は余計悪く見えた。

「何が」
「ニセモノの姿で、ノティ姉さまに近寄らないで」

なんでまたそんな話を。ニセモノ、と言われるのは心外だった。

「それは、聞けないな」
「どうして」

とても身を起こす気分じゃなかった。もうずっと、夢の中でもいい。
もう一度眠りに落ちれば、今度こそそんな夢を見られる気がした。
今度こそ、今度こそ。

「“ノティ様”と“ノティカ様”は、同じだけど、ベツジンだから」







――馬鹿なことくらい、オレが一番わかってるよ。
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