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小説置き場。更新は凄く気まぐれ。
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「……なんて冷たい風なのかしら」



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「忘れるな、“ ”」



ここのところ近隣の仕事に回っていたため、少し遠くまで足を伸ばすのは久しぶりのことであった。
夜道を仲間と共に帰るのもなんだか懐かしい。
肌寒いと感じていたそれはどこへ行ったのだろうか、夜風は昼間の余熱を含む。
本格的に暑くなりだすこの時期はまだ体が空気に慣れておらず、日が沈むと吹き出すように疲れが襲った。
地面からもわずかに熱の気配が感じられる気がする。
こもる一方の熱。大地より上空の空気の方が冷えている気さえした。
彼は逃れるようにして天を仰ぐ。
その時だった。

空気の層がいくつも重なり合って遠くの様子を青く色褪せて見せる。
水飛沫が騒ぐのを聞きながら、ムルは川をずっと下った先に、木々が密集しているのを見た。
その先は地平線もあってどうなっているかわからない。緑に覆い尽くされた範囲も、広いのか狭いのかおおよその範囲も掴めなかった。

どうしたものかと息を吐く。
川辺に打ち上げられてないかも注意していたが、見える範囲ではそれはなかった。
足元が崩れて落下した哀れな相手に、とんだ災難だと憂いの念を向けてみた。

ふと見下ろすと、それまで木陰にいたはずの狐笛の姿が消えている――途中、水に飲まれず残っていた岩を見つけ、どうにか流れに攫われること無く反対岸にたどり着いた彼女は嫌々ながら少女と合流を果たしていた。
咄嗟に視線を振り回す。少し先に、川下に向かって駆ける少女がいた。
あのクソガキ、と口の中に言葉を打ちつけ、彼女は慌てて木から飛び降りた。
テーブルの中央、向かいに座る彼女とのちょうどあいだのところで、なだらかな山を成したクッキーが甘い香りで食するのを誘っていた。
僕はそれを一つつまんで口に運び、次いでティーポットに手を掛けた。
彼女を見てて、なんとなく僕も飲みたくなってしまっていた。
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