忍者ブログ
小説置き場。更新は凄く気まぐれ。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


「あ、の……大丈夫、です?」




恐る恐る、といった調子でプラスルの少女は訊く。
それはこの沈黙を紛らわそうかとしている様にも取れる行動。

「え? ……どうかしました? いきなり」

それはとある日、お尋ね者を逮捕する、という仕事を終えた後の夕暮れ。

そのお尋ね者というのもそこいらのこそどろなどとはワケが違う――いわば他者の命を奪った、重罪を負わされることを行った者で、警察であるジバコイルも手を焼いていたところだった。
その依頼を引き受けた、風音。と、リフリス。
お尋ね者に決定打となるダメージを与えたのは、今突然の問いかけに戸惑いを見せたリフリスだ。

「えーと……リフリス、大丈夫です?」

プラスル――風音は繰り返す。
怪訝そうなその表情、少女はそこに一言付け足した。

「リフリスさっき、ドラピオン見て微かに震えてたのです」

ドラピオン――つまりはお尋ね者なのだが、風音はそう些細な事を漏らす。
つわもの相手にしている大変なときにでもその本当に微々たるところを見ていたというのは、さすがアーチェの護衛に推薦されている双子の一人といえよう。
風音の呟き――他人にとってはなんとも思えないもののだが――それに一度、微かにリフリスの肩がびくりと揺れた。


「いえ、そんなことは」

少しの間が開いて、リフリスは口を開く。
しかし、それは何か――そう秘密を隠しきれていないような、そんな口振り。
見上げてきた少女の視線を避けるかのように、ゴウカザルの視線が宙を留まりなく泳ぐ。

「そうなのです? な、ら、いいです……」

少し疑問を抱きつつも、控えめな性格からなのかどうなのか、少女はすぐ視線を落とす。
ただその目からはまだ諦め切れていないというような精神がみえた気が、リフリスにはして。

「……風音さんには、怖いものがありませんか?」

さてと、足を進めよう。
としていた風音の背後で、敬語口調のそれが少女の背をつつく。

「怖いもの、です?」

くるりと振り向くとまたまたリフリスを見上げる。
やはり彼女は視線を合わせてはくれなかったが、それでも返事だけはしてくれた。

「ええ。あなたはまだ小さいでしょう? それでアーチェさんの護衛です。あの方のお側に付くという事は、それだけ危険なこともあるでしょう」

彼女はそう言い切ると、ふっと、視線を落とす。
やはりその目線の先で風音は見上げていて、

「……怖くなどはないなのです」

そういった直後、少女は一瞬瞳を伏せる。
再び開いたそこには、何か強い意志のような輝きがこもっていて、

「風兄がいるのです、ウチそれでいいのです。風兄いるので十分なのです」

小さなその目をリフリスに向けて、風音は普段の薄い表情のそこに小さな笑みを浮かべる。
それは風音自身の素直な感情からなのか、あるいはリフリスに向けた励ましのようなものなのか、

「そうですか。それなら、心配要りませんね」

リフリスには分からなかったけれど。
怪訝に訊きなおすと風音はこくんと頷いてくれて、彼女は一言そう言った。


「……リフリスは、ドラピオンが怖いのです?」
「……、昔のトラウマのようなものです。お気になさらないで下さい、私なら大丈夫ですから。ね?」
「は、はいです」

どこか悲しげな表情が潜んでいるような感じがして、風音はそれ以上何も探求しようとはせず。
風音は今度こそ足を動かしに掛かる。
リフリスもまた、少女の背を見て進み始める。



それは黄昏時。沈み行く日の光に紅く照らされていた中。



「――もう、過ちには触れたくないのです」



誰にも聞こえずひっそりと、そんな声が落とされた気がした。
PR
 HOME | 8  7  6  5  4  3  2  27  30  24 
忍者ブログ [PR]