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小説置き場。更新は凄く気まぐれ。
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「――ったく。あいつどこ行きやがったんだよ」



見送りから戻り部屋に帰った頃にはすでに部屋はもぬけの殻。
床の間にあった名刀「闇姫」が無いことから、鬼月陰から出たのだろうと楽に推測はできるが。

相変わらずなんてマイペースな奴だろうかと思い、カンフィスは放りっぱなしにされた依頼で散らかった床を見下ろした。



「おーい舞夢? ……って、カンじゃないかい」
「あ? んだよテメー仕事行ったんじゃなかったのかよ」

部屋の外から顔を覗かせたファイに仏頂面で振り向く。
それをファイはお構い無しとしたように一通り部屋を見回すと、

「な、舞夢は?」

と訊いた。

「知るか。俺が来たらもうどっか行っちまった後だった」
「へー……」

別に期待はしていなかったかのようにファイが相槌をうてば、カンフィスの方は散乱した依頼を片付けにかかっている。
こいつは迷子捜しなんてやらないだろうな。
とファイが心の中でのみぼやく。


「なあなあカン、ライラ知らねー?」

そうそう、と手をたたき、迫るようにカンフィスに詰め寄る。
しかし当のカンフィスは、

「知らね」

と、整理の手を止めず即答。
それにより確実にファイの気が立ち。

「はあ?あんたんな適当に」
「仕方ねーだろ。大体ライラなら今日は鬼月陰に――」

「だから鬼月陰にいないから訊いてんじゃないか」

「――はァ?いない?」



「シ、シルビィ殿! お待ちください!」

ようやく霧の向こうにシルビィの姿をとらえ、燕紅は叫ぶ。

「えっ? な、何でついてくるの燕紅……!」
「舞夢殿からのご命令です! 一体どちらへ向かわれるのですか!」

立ち止まるシルビィの尾を掴み、肩で息を吸う。
随分走ったのだろう。
それに気付かず、シルビィは苛々と慌てたように口を開き、

「決まってるでしょ? 狐笛ちゃんを捜しに行くんだよ!」

そう答え、燕紅を振り切って先へ急ごうとする。

しかし易々と離す燕紅ではない。

「行くと言われましても、何の目星も付いていないではありませんか……!」
「それじゃあどうしろって言うの? 燕紅、舞夢君は僕を連れて帰るように言ったの?」
「え? いや、それは……舞夢殿はただ拙者に」
「ならいいでしょ? 僕が狐笛ちゃんを捜しても! それに――」

燕紅がまだ言葉を繋ごうとするのに割り込み、一呼吸し、シルビィは不意に燕紅をじっと見つめる。

「な、なんでありましょうか?」

「……燕紅だったらさ、こういう時、捜さないの?」
「……はい……?」

困ったように、というより理解できていないかのような素振りを見せられ、焦燥するシルビィ。

「うん。やっぱり燕紅に訊いた僕が悪かったよ」

横目でまだ首を傾げるバシャーモを見ては、モタついている場合でないと言わんばかりに顔を上げる。

はたくようにして、やっと燕紅の手を振り切る……――かと思いきや。


「ほら!燕紅」
「え?」

シルビィは振りほどくとこはなく、逆にぐいとそのまま燕紅を引っ張り進む。
こうなると予想もつけていなかったために目を丸くするのは燕紅。
もっとも、燕紅が物事を予想するなんて事事態が珍しい。

「燕紅も手伝うんだよ?」
「あ……はい……?」
「……だーかーら! 燕紅も狐笛ちゃんを捜すんだよ! 舞夢君の命令なんでしょ?」
「命令……ですか……?」

やはりぽかんとする燕紅に焦れたシルビィの荒ぎ声がふりかかる。


シルビィからすれば、これは燕紅をこちらにつけるための一種の策略だ。

舞夢の言うとこは燕紅にとっては絶対。
その事を利用しない訳にはいかない。

そしてやはり燕紅、というべきだろうか、

「命令……そうなのですね、舞夢殿は狐笛殿を捜すよう拙者に命じていたんですね!」

なるほど、と今やっと気づいたと言うようだが、実際舞夢はそんなつもりで言った訳ではない。
シルビィの燕紅を手伝わせるための発言は、まんまと燕紅をはめてしまう。
上手くいった。と、心のなかで嬉々とするシルビィ。



――カサリ。



「?」

そんな中、茂みが揺れる音がする。
燕紅が真っ先に気づき、つられてシルビィもそちらに目を向ける。

実際、霧のせいで肝心の茂みは何にも見えないのだが、確かに音はこちらから聞こえた。


「……どなた様ですか?」
燕紅が警戒しながら見えぬ相手に問いかける。

この森に入ってくる者なんてそうそういない。
鬼月陰への客か、または襲来者か。
はたまた紛れ込んだ野生のポケモンくらいだ。
前者や最後なら何を気にするともないが、後者であれば話は別だ。

燕紅はそちらに注意を払い、シルビィはその後ろで黙って見ている。



「――あ、あれ……燕紅君?」

「ライラちゃん?」

ふと出された声に、すかさずシルビィが返す。
またカサリと葉っぱの擦れ合うのが聞こえたかと思うと、

「え、シィ君もいるの?」

すっと霧から現れたヘルガーは――鬼月陰のライラ。

ほっとしたのと同時に、シルビィは何だか残念な気もした。
もしかしたら狐笛かもしれないと期待もあったわけで。

「ライラ殿! どうされたのですか?」
「あ、ライラ? んーっと……舞夢様にね、お仕事もらって」
「舞夢殿に?」

すっかり警戒も解かれたのち、ライラがそんな事を口にする。

「うん。迷子の捜索なんだ。舞夢様が居場所の特定してくれたから、いまからそこに――」
「居場所の特定!?」

声を上げたのはシルビィだ。
びくりと体を縮めてしまうが、少女は困り顔で言葉を繋げ、

「えっ? ラ、ライラ何か悪いこと言った?」
「ライラ殿、居場所の特定とはどういう……?」
「そ、そうだよ!」

口を揃えて言われるものだから、状況がつかめていなかったライラもすぐに勘付いたよう。

「え、えっと……ほら、舞夢様変わった能力持ってるよね?それで居場所とかはわかるみたいで」
「そういえば……」

燕紅も心当たりはあるよう。

つまりは舞夢には、大体の位置把握は可能と言うわけだろうか。
もっとも、琴にはその事を教えたかどうかは定かでないが。

「ねぇ、ライラちゃん。舞夢君も狐笛ちゃんを捜してくれているの?」

そんな事が可能なのだ、舞夢が乗り出してくれれば事はすぐにおさまる。
期待の目でライラを見るシルビィだったが、

「ううん、舞夢様はお仕事に行っちゃったよ。その後に任務にも行くみたいで、お部屋で依頼の山とにらめっこしてたかな?」

思い返すライラ。
カンフィスが片付けにかかっている依頼とはそれだろう。
そんなことも誰も知るはずはないが。

その事を聞き少し残念な気はあるのだが、とりあえず今すべきことを忘れているわけではない。

「それでライラちゃん。ライラちゃんはどこに向かっていたの?」

落ち着きが出てきたらしいシルビィが尋ねにかかる。
そういえばそうだったね、と言うように少女は手を叩く。少し微笑み、

「北だよ。舞夢にそう言われたからね」

彼女はすっと、自分が進む方向に尾の先を立てる。
ちょうど、シルビィが向かおうとしていた方向だ。


「――北?」

ピクリと燕紅が眉を寄せた。
そうして何やら考える素振りを見せたあと、まさか、と言うような表情でライラに向き直る。

「ひょっとしますと、ライラ殿は鬼月陰からこちらに向かわれていた……の、ですか?」
「そうだよ。鬼月陰からずっと北に向かって、真っ直ぐに進んだんだよ」

突然そんな事を訊かれ目をぱちくりとさせるも、ライラは落ち着いて言葉をつなぐ。
しかし、そう聞いた燕紅の表情は険しく変化していく。

「あ、あの……申し上げにくいのですが」
「? どうしたの、燕紅?」

調子でも悪いのだろうかとシルビィが顔を覗き込んだが、まさかそんなことではない。
あからさまに燕紅がこうなったのはライラの影響だろうと直感はしたが、



「ライラ殿……ここは鬼月陰から南の方角なのですけれど……!」


まさか、燕紅からのその言葉。
南、とは、北の真逆だ。



「……あ」
「……えっ?」

そうだった、とシルビィが口を押さえる。
あれ、と言ったようにライラは小首を傾げた。
そんなライラなど気にすることもなく、シルビィが忘れていたかのように呟く。

「ライラちゃん……方向音痴なんだった……!」
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