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小説置き場。更新は凄く気まぐれ。
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依頼の帰り道、なんとなく立ち寄った街はなぜかやけに賑わって見えた。
こんな寒い真夜中なのに、何かあったっけか。
赤い煉瓦の道の脇には光りで飾られた植え込みが並んでいる。
眩く瞬くそれを見て、ふと昔に見たバルビートとイルミーゼのイルミネーションを思い出す。
あれは湖での景色だったか。なんて懐かしく思うと同時に、また見に行きたいもんだなと考えた。

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とある林に、特別なリンゴの木があるという――。
「全く……気を利かせた俺が寄ってなかったら、今頃どうなってたんだろなー」

呆れた表情を浮かべ、咲羽は吐息をもらす。
強弱のない棒読みの言葉は非常に耳に障り、反響するものがないこの場所ではこだますることもなく空に紛れて消えた。

依頼の帰りではなかった。
普段なら道具を収納するバッグがあるはずの位置に、今日は何故か籠を持っていた。
木を編んで出来たそれの中には土臭い肥料袋やジョウロが入っている。
あとは小さく実った赤色いヒメリの実がいくつか目で見て数えられる程度だ。

咲羽が進むのは完全な野道で、林のように木々がはびこっているわけではない。
手入れもされない雑草が思い思いに背を伸ばしている荒れ地だ。
草の丈が高く、足元が見えないので適当に踏み分けて進む。
翼を持つ彼なら歩かずとも飛べば済む話だが、他の鳥ポケモンに比べてそこまで飛ぶ方が便利だとも思ってないのが咲羽だ。

このまま進めばやがてちゃんとした道に出る。
そこを辿れば街に通じ、しばらく歩けば基地へと戻れる。
先程まで、「彼ら」は木の実を付ける植物が背を伸ばす、手入れが行き届いた敷地――いわゆる畑にいた。


ぽかぽかと、とても暖かい昼下がりだった。
「くっそッ……舞夢……!」

痛むのを抑えるのに精一杯で、まともに動かせるのは視線だけだった。
ヒビ入る大地と倒れた木々。衝撃で吹き飛ばされた自分が打ち付けられたところはへこみ、歪み、折れ、建物に大きく傷をつけた。
先程の一撃の凄まじさはその反動を喰らった自分からだけでなく、周りの崩壊具合から易々とくみ取れる。

――これをあいつは直で喰らったってのかよ……!

未だもくもくと収まらない土煙の先に目を凝らした。
無事を願うが最悪のシチュエーションが脳裏に焼き付いて離れない。
その時、脆い音が聞こえた。
瓦礫の中でゆらりと何かがうごめいた。

「……ッ」

舞い上がる砂の中に舞夢は立っていた。
それを見てゾッと血の気が引いた。

血の色をした眼に、光がない。

痛覚のない彼は、己の体が限界を訴えるのに気付けない。
だから誰よりも戦闘では起動していられるが、その信号を無視するということがどれほど危険なことか。
限界を越えるのは――それは自らの命を蝕むことだ。

どれほどのことであっても息を切らすことのない彼が今、荒い息遣いをしているのは一目瞭然だった。
今の彼はリミットを越えているどころではない。
意識を保つのだけで限界なのだ。

「体が機能しなくなるようにキッチリ狙って攻撃したのになぁ、まだ立ち上がるとは……執念深いとこはお父上そっくりだね」

上空から降下してきた要石が地表辺りで光を漏らしたかと思えばぐにゃりとひずみから怨霊の姿を現し、そんなことを言って舞夢をじっと見るような素振りを見せた。
カンフィスの耳がその言葉を逃すわけなかった。

「父……だと……?」
「彼はボクにひどいダメージを負わせてくれたよ。よっぽどお怒りだったんだろうねぇ。まあ、排除してやったけど。……先代の当主の魂はボクの中に在る。ボクが喰ったからね」

ボゥ、と緑光を灯した球体を旋回させながら答えると、浮かんだ状態から己の縛り付けられた石を地に付けることもせずに舞夢のもとへゆっくりと移動してゆく。

「あん時……永夢を手にかけたのはテメェか!?」
「だーから、舞夢がお怒りなんじゃあないか」

くすくす、と子供のような笑い声がした。
情のない、残虐な笑い。

「先代についての真相は霧の如く失せていた。その真実がやっとわかったんだ。いくら冷静沈着で鬼才と讃えられる現当主も、黙ってられないさ。……そうだよねぇ、舞夢?」
「煩い……!」

舞夢はそれを睨むも、明らかにその殺気は薄れていた。
負った傷が深すぎるのだ。
相手もそれを把握した上なのだろうか、無防備に舞夢のすぐ手前にまで迫るとそこで、ガコンと重い落下音がした。

「先代と同じ場所に、現当主もお迎えしようじゃないか」

身を降ろした侵入者の声色が怪しく聞こえる。
咄嗟に舞夢が構えたかと思えば鋭い金属音が響き渡り、舞夢の手から刃が叩き落とされる場面だけが見えた。
その衝撃で体勢が崩れかけたのを立て直そうとした時、ついにその顔に苦痛の表情が見えた。

「痛覚がないキミは辛うじて動いてられたけどね、実際なら激痛で気を失ってもおかしくないダメージのはずだよ。今も痛みはないだろうけど、体がおかしいのだけは解るよね」
「……っ」

緑の旋回が加速しだす。高揚感でも表してるのか。
満足げに語る侵入者を、臆することなく舞夢は睨み続けていた。
けれど次第に赤い目は細くなり、フッ、と首が垂れた時、ついにその身はがくんと崩れるようにして地に伏した。
石のひずみが瞬いて紫がひときわ大きく広がった。

「アッハハハ! 痛覚が無いのが仇になったな!」
「舞夢ッ!!」

高い声が響くのと共に、喉が切れるような叫び声が上がる。
不気味な光を身に宿したその顔が振り返って嫌な笑みを浮かべた。

「良かったじゃないか。これでやっと親子が再開できるんだからねぇ?」
「目ェ覚ませ舞夢! 起きんだよ早く!!」
「無駄だよ。キミだってこいつが意識あるのすらビックリしてたじゃないか」

やれやれとため息らしきものを吐き、外部など気にも止めないという様子を見せたかとおもうと一度吸われるように石の中に身を戻し、しばらくして再び出した。
すると彼は何か聞き取れない言葉をつむぎ出す。
その体から緑光を灯した球体が幾つか放たれて、ゆらゆらと舞夢の周りを旋回し出したかと思えば徐々に速度を増していた。
人魂が集っているようでおぞましさを感じる。

まずい。止めないと。何か嫌な予感がする。
そう思っても体が言うことをきかなかった。

「さァて、月の社の守護者の魂、ちょうだいしようか!」
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