小説置き場。更新は凄く気まぐれ。
(突如聞こえた爆発音。慌てて駆けつけるとそこには……すでに何もなかった)
「さっき爆発があったのは――ここか」
先を行っていたクサリが足を止めたので、必然的に猫の歩みも止まる。
少しばかり大きなクレーターらしきものが地に確りと残されている。
近くの木々も所々吹き飛んだような形となっているため、さっきの爆発がここであったという確率は高い。
その惨状に、思わず猫がぽつりと呟く。
「うわっ……またこれは酷いなぁ~滅茶苦茶やん」
「これは確かに事件になる筈だ」
クサリはそう返し、一度辺りを見回す。
ひょっとすれば近くに犯人がいるということもあるだろうが、あれから幾分も過ぎている、影は見当たらない。
「あ、いたいた!クサリ姉さんに猫さん」
「ん?あ、咲羽君!エルウィンもどないしたん?」
聞き覚えある唐突な声に振り向くと、やはり見覚えのあるチルタリスが捉えられた。
その後ろをついて歩くエルウィンが説明しづらそうに顔を歪ませる。
「ん?ああ、この方、自分が言うのが遅かったせいで犯人逃がしちゃうのは悪いと思って、俺らんこと手伝ってくれるってさ♪」
「そうなん?な~んも悪いことなんてあらへんのにーおおきになぁ♪」
猫はそう聞いて嬉しそうに顔を向ける。
エルウィンはそのままやはり言い難そうにしているが、まるで何かを諦めたように一言。
「いえ……僕にお手伝いできる事なら何なりと申してください」
それと同時に小さく、咲羽が怪しい笑みを浮かべる。
彼は見事咲羽の企みにはめられてしまったようだった。
▼19話 鈴と声と夜と
「にしても、後の三人は大丈夫やろか~?犯人が極悪やったとしたら、相手できやんのとちゃう?」
林を捜索しながらふと、猫がそのような事を口にする。
タンゴとアネシアは昼間の出来事から犯人などの相手は無理だと推測できる。
「ラナがどうにかするだろう」
「あーラナちゃんね♪可愛い顔して恐いよね。今日のあれは吃驚したよ、まっさかあんなに大きい木丸々一本運んできたんだし!」
クサリの意見に補足するかのような咲羽の感想が述べられる。
確かにラナがいるのなら犯人に会ったとしても、そこいらの木でも引っこ抜いて投げつければどうにかなりそうだ。
「っていうかエル兄さん?何か見えたりしないワケ?次の爆破場所とか」
咲羽が振り返ってわくわくとしたように言う。
エルウィンはさっきから黙ったままであるけれど、何か知っていることがあるならば聞いておくべきではあるだろう。
しかし彼は残念そうに俯く。
「すみません…今のところはまだ何も先が見えませんね。さっきの爆発について見えたのが最後です」
「あ、そう」
いかにも当てにしていなかったとでも言いたげな素気ないそれを残すと、今度は猫とクサリに向き直る咲羽。
「で、どうすんの?このまま探したって見つかるワケないと思うけど」
「確かに……ここにいない可能性もあるだろう。一旦今日は引き上げるべきか――」
考え込むクサリの隣で猫が耳を澄ませる。
さっきから犯人の足音でも聞き取ろうとしているが、いくら耳がよい猫といえどもそれは難しい。
「はぁ、なーんも聞こえやん。ホント、ここにはおらんかもしれやんなぁ」
うなだれてぽつりと呟く。
首から下がっている錆びた金鈴が小さく音を立てた。
「――気になってたんだけど猫さん、それ何?」
「ん?あ、この鈴?ネコやった時にもろた物やよ!」
「ネコ?」
猫の答えよりも先、咲羽がその言葉に引っかかる。
そういえば言ってなかったな、と思い手短にクサリが説明に入る。
――そういえばタンゴ達にも言った覚えがない気もする。
「へぇ……元がネコって、ポケモンになっても外見あんまし変わんないね♪」
咲羽はそうからかうかのように笑うが、その言葉に猫が反応してしまう。
「え、何?咲羽君ネコわかるん!?」
「当ったり前!だって俺元は人間だし」
彼はさらりと重大発言を済ませると、するりと今まで猫の首に繋がれていた鈴を取り外してしまう。
そうしてその真っ白な羽毛で丁寧に手入れし始めてしまう。
「いやいやちょと待ち!?咲羽君人間やったなんて俺初めてきくんやけど!?」
「私もだぞ?」
「ごもっとも!だって俺が人間だって知ってるの、リリーフ一同様くらいだしね」
ま、そこのお兄さんは別として、と呟いてくいっと顎でエルウィンを示す。
するとエルウィンは小さく頷いている。
どうやら咲羽が元人間だったという事は彼にはお見通しだったんだろう、おそらく猫やアネシアのことも見透かせていると思える。
「ま、別に隠す必要もないし、言う必要もないからさ。どーでもいいじゃんそんなこと♪」
どうぞ、と猫に鈴を差し出して、軽く言って終わらせてしまった。
ニコニコとした彼から鈴を返されて一瞬戸惑うも、すぐに猫の表情が明るくなる。
「わわ、何これ凄いやん!!錆び無くなってる…!?」
咲羽のもとから戻ってきた鈴はついさっきまでと違って綺麗に錆びが取れており、金色に光っているように見える。
ほんの数十秒の間にここまでできるのは手先――いや羽先といおうか――が器用な咲羽だからこその技である。
「前から気にはなってたんだ、錆びてるの。それでスッキリするでしょ」
「凄いやんか咲羽君!おおきになぁ俺これキレーにできやんだから――」
猫は褒めの言葉を何度も繰り返しながら再び鈴を取り付け始める。
ちょっとの振動で奏でられる音が格段と透き通って聞こえる。
「さーてと、で、今日はもう引き上げるんだよね?」
「ああ、そのつもりだ。あとの三人も探さなければならないしな」
「そうだよね。じゃあ早く帰ろうか」
咲羽がクサリの了承を得、一番に歩みだす。
「僕が何か見えればよかったのですがね……」
「気にするな。お前に責任があるわけでも無いだろう?」
エルウィンが苦笑するのを聞いて、クサリがそう返す。
そのまま二人も咲羽の後に続いたので、猫も自然とそのあとを追う形となる。
一歩踏み出すと小さく鈴が振動する。
――くすくすくす……
「――あれ?」
「……どうかされましたか?」
猫の疑問の声にいち早く気がついたエルウィンが振り返る。
それが聞こえてクサリと咲羽がこちらを見る。
「え、また俺だけ?くすくすって笑い声みたいな……」
他の皆は何も聞こえなかったかのように首を傾げたり耳を澄ませたり。
猫も結構このパターンには慣れているけれど、今回ばかりは違う。
いつもの猫にしか聞こえない音はほんとうに微かなようなものだが、今回のこれは明らかに、音量的に皆にも聞こえるはずだ。
――くすくすくす……
そうしている間にも確かに聞こえてくる。
それなのに誰にも聞こえてはいないよう。
それもおかしな話だが、猫自身その声がどこから出ているのかが正確にわからない。
いうなればそう――周囲全体から聞こえているみたいで……。
――ほぉら、犯人逃げちゃうよ?はやくはやく、こっちこっち!
すると急に声の出所が安定したようになる。
丁度猫の後ろから。
しかし振り向いた所で誰かがいるわけでもなく、ずっと細い林の道が続くばかり。
「どうした猫?……行くぞ?」
「……ゴメンクサリ!ちょっと先かえっとってぇ!」
それだけ言い残すと、猫は声の出所の辺りに走り出す。
皆から離れると再び、同じ声は聞こえてくる。
――こっち、その次を右に曲がってまっすぐ……
さっき犯人と言った事より、この声の主が何か知っているのだろうが、これが誰かが分からない。
不思議に思いつつも言われたとおりに進みながら、
「なぁ?あんたは誰や?ちゃんと姿現したらどうなんさ!」
当てもなく猫が訊いてみると、くすくすとした笑いが零れる。
やはり出所が明確ではない。
――さっきから、私たちは近くにいるのに、何言ってるの?
「近くって、さっきから俺の近くにあるのは木ばっか……」
――そうだよ、私たちは木。
その予想外の答えに猫は戸惑いを隠せない。
一度あたりの木を見回してしまう。
これらが自分に話しかけていた相手だとは到底考えてもなかったからだ。
それならクサリ達に聞こえなかったのは当然だろうけれど……何故自分だけに?
しかしそこから木々の声は聞こえなくて、それを尋ねる事はできなさそうだった。
凛とした鈴の音が小さく気高く響き渡った。
先を行っていたクサリが足を止めたので、必然的に猫の歩みも止まる。
少しばかり大きなクレーターらしきものが地に確りと残されている。
近くの木々も所々吹き飛んだような形となっているため、さっきの爆発がここであったという確率は高い。
その惨状に、思わず猫がぽつりと呟く。
「うわっ……またこれは酷いなぁ~滅茶苦茶やん」
「これは確かに事件になる筈だ」
クサリはそう返し、一度辺りを見回す。
ひょっとすれば近くに犯人がいるということもあるだろうが、あれから幾分も過ぎている、影は見当たらない。
「あ、いたいた!クサリ姉さんに猫さん」
「ん?あ、咲羽君!エルウィンもどないしたん?」
聞き覚えある唐突な声に振り向くと、やはり見覚えのあるチルタリスが捉えられた。
その後ろをついて歩くエルウィンが説明しづらそうに顔を歪ませる。
「ん?ああ、この方、自分が言うのが遅かったせいで犯人逃がしちゃうのは悪いと思って、俺らんこと手伝ってくれるってさ♪」
「そうなん?な~んも悪いことなんてあらへんのにーおおきになぁ♪」
猫はそう聞いて嬉しそうに顔を向ける。
エルウィンはそのままやはり言い難そうにしているが、まるで何かを諦めたように一言。
「いえ……僕にお手伝いできる事なら何なりと申してください」
それと同時に小さく、咲羽が怪しい笑みを浮かべる。
彼は見事咲羽の企みにはめられてしまったようだった。
▼19話 鈴と声と夜と
「にしても、後の三人は大丈夫やろか~?犯人が極悪やったとしたら、相手できやんのとちゃう?」
林を捜索しながらふと、猫がそのような事を口にする。
タンゴとアネシアは昼間の出来事から犯人などの相手は無理だと推測できる。
「ラナがどうにかするだろう」
「あーラナちゃんね♪可愛い顔して恐いよね。今日のあれは吃驚したよ、まっさかあんなに大きい木丸々一本運んできたんだし!」
クサリの意見に補足するかのような咲羽の感想が述べられる。
確かにラナがいるのなら犯人に会ったとしても、そこいらの木でも引っこ抜いて投げつければどうにかなりそうだ。
「っていうかエル兄さん?何か見えたりしないワケ?次の爆破場所とか」
咲羽が振り返ってわくわくとしたように言う。
エルウィンはさっきから黙ったままであるけれど、何か知っていることがあるならば聞いておくべきではあるだろう。
しかし彼は残念そうに俯く。
「すみません…今のところはまだ何も先が見えませんね。さっきの爆発について見えたのが最後です」
「あ、そう」
いかにも当てにしていなかったとでも言いたげな素気ないそれを残すと、今度は猫とクサリに向き直る咲羽。
「で、どうすんの?このまま探したって見つかるワケないと思うけど」
「確かに……ここにいない可能性もあるだろう。一旦今日は引き上げるべきか――」
考え込むクサリの隣で猫が耳を澄ませる。
さっきから犯人の足音でも聞き取ろうとしているが、いくら耳がよい猫といえどもそれは難しい。
「はぁ、なーんも聞こえやん。ホント、ここにはおらんかもしれやんなぁ」
うなだれてぽつりと呟く。
首から下がっている錆びた金鈴が小さく音を立てた。
「――気になってたんだけど猫さん、それ何?」
「ん?あ、この鈴?ネコやった時にもろた物やよ!」
「ネコ?」
猫の答えよりも先、咲羽がその言葉に引っかかる。
そういえば言ってなかったな、と思い手短にクサリが説明に入る。
――そういえばタンゴ達にも言った覚えがない気もする。
「へぇ……元がネコって、ポケモンになっても外見あんまし変わんないね♪」
咲羽はそうからかうかのように笑うが、その言葉に猫が反応してしまう。
「え、何?咲羽君ネコわかるん!?」
「当ったり前!だって俺元は人間だし」
彼はさらりと重大発言を済ませると、するりと今まで猫の首に繋がれていた鈴を取り外してしまう。
そうしてその真っ白な羽毛で丁寧に手入れし始めてしまう。
「いやいやちょと待ち!?咲羽君人間やったなんて俺初めてきくんやけど!?」
「私もだぞ?」
「ごもっとも!だって俺が人間だって知ってるの、リリーフ一同様くらいだしね」
ま、そこのお兄さんは別として、と呟いてくいっと顎でエルウィンを示す。
するとエルウィンは小さく頷いている。
どうやら咲羽が元人間だったという事は彼にはお見通しだったんだろう、おそらく猫やアネシアのことも見透かせていると思える。
「ま、別に隠す必要もないし、言う必要もないからさ。どーでもいいじゃんそんなこと♪」
どうぞ、と猫に鈴を差し出して、軽く言って終わらせてしまった。
ニコニコとした彼から鈴を返されて一瞬戸惑うも、すぐに猫の表情が明るくなる。
「わわ、何これ凄いやん!!錆び無くなってる…!?」
咲羽のもとから戻ってきた鈴はついさっきまでと違って綺麗に錆びが取れており、金色に光っているように見える。
ほんの数十秒の間にここまでできるのは手先――いや羽先といおうか――が器用な咲羽だからこその技である。
「前から気にはなってたんだ、錆びてるの。それでスッキリするでしょ」
「凄いやんか咲羽君!おおきになぁ俺これキレーにできやんだから――」
猫は褒めの言葉を何度も繰り返しながら再び鈴を取り付け始める。
ちょっとの振動で奏でられる音が格段と透き通って聞こえる。
「さーてと、で、今日はもう引き上げるんだよね?」
「ああ、そのつもりだ。あとの三人も探さなければならないしな」
「そうだよね。じゃあ早く帰ろうか」
咲羽がクサリの了承を得、一番に歩みだす。
「僕が何か見えればよかったのですがね……」
「気にするな。お前に責任があるわけでも無いだろう?」
エルウィンが苦笑するのを聞いて、クサリがそう返す。
そのまま二人も咲羽の後に続いたので、猫も自然とそのあとを追う形となる。
一歩踏み出すと小さく鈴が振動する。
――くすくすくす……
「――あれ?」
「……どうかされましたか?」
猫の疑問の声にいち早く気がついたエルウィンが振り返る。
それが聞こえてクサリと咲羽がこちらを見る。
「え、また俺だけ?くすくすって笑い声みたいな……」
他の皆は何も聞こえなかったかのように首を傾げたり耳を澄ませたり。
猫も結構このパターンには慣れているけれど、今回ばかりは違う。
いつもの猫にしか聞こえない音はほんとうに微かなようなものだが、今回のこれは明らかに、音量的に皆にも聞こえるはずだ。
――くすくすくす……
そうしている間にも確かに聞こえてくる。
それなのに誰にも聞こえてはいないよう。
それもおかしな話だが、猫自身その声がどこから出ているのかが正確にわからない。
いうなればそう――周囲全体から聞こえているみたいで……。
――ほぉら、犯人逃げちゃうよ?はやくはやく、こっちこっち!
すると急に声の出所が安定したようになる。
丁度猫の後ろから。
しかし振り向いた所で誰かがいるわけでもなく、ずっと細い林の道が続くばかり。
「どうした猫?……行くぞ?」
「……ゴメンクサリ!ちょっと先かえっとってぇ!」
それだけ言い残すと、猫は声の出所の辺りに走り出す。
皆から離れると再び、同じ声は聞こえてくる。
――こっち、その次を右に曲がってまっすぐ……
さっき犯人と言った事より、この声の主が何か知っているのだろうが、これが誰かが分からない。
不思議に思いつつも言われたとおりに進みながら、
「なぁ?あんたは誰や?ちゃんと姿現したらどうなんさ!」
当てもなく猫が訊いてみると、くすくすとした笑いが零れる。
やはり出所が明確ではない。
――さっきから、私たちは近くにいるのに、何言ってるの?
「近くって、さっきから俺の近くにあるのは木ばっか……」
――そうだよ、私たちは木。
その予想外の答えに猫は戸惑いを隠せない。
一度あたりの木を見回してしまう。
これらが自分に話しかけていた相手だとは到底考えてもなかったからだ。
それならクサリ達に聞こえなかったのは当然だろうけれど……何故自分だけに?
しかしそこから木々の声は聞こえなくて、それを尋ねる事はできなさそうだった。
凛とした鈴の音が小さく気高く響き渡った。
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