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小説置き場。更新は凄く気まぐれ。
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(木々に導かれ、ひとり林の奥にきた猫。そこで――)

ザッと、湿った土の音がする。大分林の奥にまで来てしまったんだろう。
声の正体が木、だったという事が分かったのはいいのだが、それっきり例の木の声が聞こえることは無い。

おかげで猫は皆ともはぐれてしまったことになり、

「はあ……ホンマ、何なんささっきの」

第一に何故俺にしか聞こえなかったのだろうか、という疑問。

すぐ近くにはクサリ、咲羽、エルウィンもいるというのに、それなのに耳にすることができたのは猫だけ。
もしかしたらエルウィンになら聞こえるかもしれないが、さっきの様子を思い出す限りでは彼にも聞こえてはいないだろう。

――さて、今からどうすべきか。



▼20話 泣き虫泥棒



「犯人はどっかにはおるんやろうけど…ここ、どころへんなんやろ?」


とりあえずは適当に辺りを歩き見回ってみる。が、目に見える景色は相変わらずの薄暗い木々の連鎖。
そろそろ日も落ちてくる頃だろう。木の葉で覆い尽くされて空の色を確認できないが、きっとそうだ。
ここはゴースが出ることはないと思うがそれでも多少の不安はあるもので。
そんなことで、変わらぬ景色と小さな不安が苛立たせた猫の口を開ける。

「ああもうッ!!ホンッマにどこやよここ!?さっさと犯人出てきたらどうな――」


――ゴンッ


ポケモンと木の幹が衝突――正式にはちゃんと前を見ていなかった猫が近くにあった木に激突してしまった音。それが低く響く。
猫も猫でそれなりに速く歩いていたため、ぶつかった時の衝撃はさらに大きくなっており、

「痛ぁあ……もう、ホンマ嫌や……」

打った額を押えるとまた吐き出す。
しかし、そう言ったすぐ後、ほぼ同時くらいに衝突した木の上の方ががさりがさりと大きく揺れる。

「え?」

衝突の勢いが強くて揺れたのかとも思ったが、それにしては揺れるタイミングがおかしい。
見上げてみると、その木は案外沢山の太く大きな枝を持っていて、そこにまた多くの緑の葉を付けている。
その葉ががさがさと音を立てている、と分かったその瞬間にそこから、


「はぅ……!?」

「え、何…いッ!?」

何かしら小さな桃色が放り出されたかと思うと、重力によってこちらへと落ちてくる。
その落ちる先、というのが猫の頭上でもあり…つまりは頭にそれが激突してきたこととなる。
衝突すると、それは猫の後ろへびたんっと聞き取りやすい音を立てて突っ伏す。
今度は頭をおさえ、くるりと振り返り見る猫。
「な、な何なんいきなり……!?」
「はぅ……び、吃驚したのぅ…」

耳を小刻みに動かしながら体勢を立て直す、そいつ。
さっきの通り桃色で、長くて先っぽが丸く膨らんだような形をした尾をしている。

「あ、あんたどうしたんあんな上から?」
「はぅ……!?」

呼びかけるとびくりとまるでわざとかと思えるくらいに肩を跳ねさせた。
恐る恐るこちらを振り向くと、今にも泣きそうなように青い目を揺らせている。
まるで猫がいることに今気付いたかのような目で見る。これには猫も自分が悪いことをしたかのように思われているように感じさせられてしまう。

「エ、エリーは何にも知らないのぅ……ど、泥棒とか聞いたことも無いのぅ!」
「え、ちょ、ちょっと泥棒て!?」

猫の耳がピクリと反応する。
「ち、違うのエリーは知らないの…!!」

エリー、と自らを呼ぶそのポケモンはどきりとしたように慌てふためく。
猫が食い付き、そこで何かまずい事を言ってしまったということにでも気がついたのだろう。
しかし、猫もこれには何かを感付いてしまうもので。
「あんた、何か知ってんのやな?泥棒事件っつーのについて」
「し、知らないノ……エリーは何にも知らないノ……」

猫が聞く前も聞いてからも断固として首をぶんぶんと左右に振り続ける。
この状態だとこのまま問い続けても同じことの繰り返しだろうとすぐ思わされる。


――と、そこに。


「あ、いたいた猫さん!」

聞きなれたあの咲羽の声が背後で聞こえる。
猫がそれに横目で振り返る。もし完全に振り向いたとすると、ひょっとするとこのポケモンが逃げようとでもし時の反応に遅れてしまうからである。

「あ、咲羽君やない」
「何やってんのさ?いきなり走ってったと思ったら珍しいミュウなんて捕まえちゃってさ?ひょっとして猫さん、そいつ捕まえようとして走って……ん……?」

猫の所に歩み寄る途中で、何かに気付いたように言葉を中断する咲羽。
猫もそれに何かと思ったが、どうやら咲羽の視線がそのミュウにいっていることに気が付き、

「おい、餓鬼」
「ひっ……!?」

さっきまで猫に掛けていた声とは打って変わった、低く鋭い声がミュウを震えさせる。
猫にとっても――まぁ、今朝知り合ったばかりだから当然かもしれないが――そのような咲羽の声を聞くのは初めてだ。

「さ、咲羽君?」
「『それ』、泥棒に盗られたはずの舞羽のクッキーだろ?」

猫の問いかけに答えることなく言い放つ咲羽。
今まで気が付かなかったがそう言われて見てみると、ミュウが何かを持っている。小包、のようだ。

「あ、う、ち、違うの!エリーは泥棒なんて知らな――」
「俺だって舞羽がそれ作ってんの見たから間違うワケないんだけど?」
「う、うぅ……」

冷たい表情でミュウの弁解に隙を与えない咲羽。
それにより少しずつミュウの目にはうるうると、涙と思われるそれが溜まってきて。


「さ、咲羽君!もうええやろこの子やて泣きそうや!」
「あはは、猫さんってば人が良すぎるって♪……ふざけてんの?」

笑顔を浮かべるも、突き刺す一言で猫に対応してくる。
咲羽が良い子だとは猫はしっかりと分かっている。しかしこれには猫も一度何も言えずになってしまう。
どうも咲羽の雰囲気が咲羽では無いのだ。

「どんなガキでも悪い奴は悪い奴、それくらい猫さんにだって分かるんじゃないの?」

「それは…そうやけど…!」


ハッキリ言って今の咲羽は冷たいといおうか、どことなく恐いのだ。
今朝のオニゴーリが感じたであろう恐さじゃなくてまた、別に。

「ううぅ……だ、だからエリーはイタズラなんてやりたくなかったのに……」

そろそろミュウの方も精神的に辛いようで、そんなことをボソリともらす。
それはミュウが泥棒の犯人だということの明らかな証拠なのだが、どうもこう犯人が子供だと分かると、咲羽に言われたとおり何となく猫は見逃してやりたく思ってしまうよう。
咲羽はそう思ってはいないようだが。


「さーてと、それでガキ。爆発事件もお前のせいなワケ?」
「そ、それは……」


猫を隔てるような状態で咲羽が問いかける。
表情こそは笑っているのだが、どうも言葉にはそれと同じようなものは感じられない。むしろ鋭い。
ミュウがまた戸惑うように瞳を揺らし、冷や汗を垂らして視線を逃げるように背ける。
放っておいたらすぐにでも泣きそうだ。



「あーー!!やあぁっと見つけたんですのぉ!!」



するとそこに、甲高く煩い少女の声が響いた。

「な、何や?」

猫が見回そうとしたが、あまりに大きかった声は林中にこだましてしまい、どこが出所なのか掴めない。
しかしそれに、ピクリとミュウが顔を上げた。

「め、メイ?」


「これでも喰らってしまえばいいですの!!!」



瞬間、林中に爆音が響いた。
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