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小説置き場。更新は凄く気まぐれ。
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“つきのこえ が みちびく”

その日の天候はしぶしぶとした小雨。
前の日の晩までの晴天とは打って変わったこの天気は、少々気が重く感じられる雰囲気を漂わせていた。


大体、雨の日といえばそうやって気分が沈むということも多々あるもので。
そんなわけで早々外出するような者も見当たらない。


「ほら、だから言ったでしょ?」


これはまたとある森の木陰――ここなら雨で濡れるという心配も無いのだろうが――そこで一寸誇張したような少年の声が聞こえる。
そうして尋ねられた方はというと今一度空を見上げ、そうして視線を戻し、

「わー……スゴイ。まさか本当にあたってるなんてね!」

アメモースの少女はそう感動したように呟くとまたぽつぽつとした雨の方へ駆け寄る。
当然、木陰から出るので濡れるのは当たり前なのだが、少女にとっては雨など気になるものではないようだ。

「でもこれくらいの雨ならまだマシだよね。ミルバは何てことないかもしれないけど」
「あはは、そりゃね♪アメタマだったころなんてしょっちゅう雨の中でも過ごしてたからね」

そうやってアメモースの少女――ミルバは振り返って元気に近くにあった水溜りを踏んだり蹴ったりして答える。
まあ進化してからはそうも行かないけど、とミルバはそこだけ気に入らないとでも言いたげにぼそりと言うが、少年の苦笑で返されてしまう。

土砂降りでさえなければこの二人にとって森を見て回ることは容易いものだろう。



しばらく少年も木にもたれ掛ったままその様子を見ていたので、次第にうつらうつらとしてきた、丁度そんな時。

「ねぇ、そこの貴方?少し道をお聞きしてもよろしくて?」

ぱち、とそんな一言が眠気を晴らす。
呼ばれたのは少年ではなくミルバなのだろうが、それでも他所の声には敏感で嫌でも目が覚めてしまう。

「え、あ私?」

彼女も振り向き、その先にエアームドの少女を確認できた。
そのままつかつかとこちらに進んでくると、さっきの言葉に返事をするわけでもなく、

「この森の出口、どちらに向かえばよろしいのかお分かりで?」

まるで偉人でもあるかのような上からの態度なのだが、別にミルバは気にすることも無かったのだろう。

「あー、それならあっちだよ?」

そしてそのまま彼女の後ろを指差した。
その先を追っていくとなるほど、小道のように木々が並んでいてなかなか迷うことは無いようなつくりになっている。
エアームドもそちらに目を細めていたが理解は早かったようで、

「そう。それなら問題ないわねぇ、ありがとう」
「ううん♪珍しいね、こんな天気にこんな場所に?」

礼の言葉を簡単に交わすとエアームドはすぐに踵を返してしまったので、慌てて――そう急ぐことでも無いのだが――ミルバも尋ねに掛かる。
しかし彼女は問いにたいして別に答えるわけでもなく。
そそくさと言われたとおりの地面を踏んで行ってしまった。


「何か、勝手な人だね」
「そうかな?私はいい人だと思ったけれど」

エアームドの姿が完全に見えなくなって、ようやく少年が口を開く。
それに対してミルバがまた違った意見を呟き、

「?どうかした?」

ミルバがそのまま姿の見えなくなった向こう側をじっと見つめているのに気がつき、ふと声を掛ける。
まるで何か思い出そうとしているような素振りを見せた後に小声で、

「…私、あの人知ってる気がするんだけどなぁ…?」
「えー?またまた、何か人違いなんじゃないの?」
「ううん!絶対何かで見たことある」

そう自信満々に声を出すと、さっきまで悩んでいたものを振り切ったように一人頷く。
そうして、またいきなり、ミルバは確りと少年の腕を掴む。
彼女はお転婆だからこういうことには少年も慣れている。
いつもどおりの展開ならとんでもない事でも言い出して振り回されるのが落ちなのだが、

「祈叶!」
「……何?」

……こう元気よく名前を呼んでくる時は大抵巻き添え食らう時であって。

「今からなら間に合いそうだから、追いかけるよ!」
「あ、うん…ってええ!?追いかけるの?」

少年、こと祈叶はその考えに簡単に納得する……も、よくよく考えては目を丸くする。
別にいつものことに比べればそこまで大変だというわけでも無いのだが。
それでも追尾ということあって、どこか悪い気はするようで。

「だ、だってそれにだよ?もし悪い人とかだったらどうするの?」
「大丈夫だよ♪祈叶喋ってないからわからないだけで、物凄くいい人だったよ」
どうにか気を紛らわそうとするも、ミルバがそうやって根拠のない証明をしてくるのだから、たまったものじゃない。
喋っていないから、とはいうものの、祈叶だってすぐ近くにいたのだからそれくらいは分かるというのに。
まあ、これも普段から行われている状況なので、祈叶自身ここで折れてしまうことくらいミルバもわかっているようで。

「よし!それじゃあ早いところ追いつこっ!」
「う、うん」

半ば強引に連れて行かれる形だが、二人も緩んだ地盤を踏み進み始めた。
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