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小説置き場。更新は凄く気まぐれ。
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青空に、燦々と太陽が輝いていた。
きらきらとした光は、ひとつの探検隊基地にも差し込み──

「あ~…よーく寝た」
両手を組んで前に突き出し伸びをすると、キレイハナの青年はソファーから起き上がろうともせずに大きな欠伸だけを残す。
何となく、起きる気分になれないのだ。
最近の仕事が大変だというわけではないが、どうもこう、折角の一人休みくらいは寝転がってソファーを占領していたいように思えてきて。

仰向けの状態のままで視線を窓の方へとやる。
きっともう正午も過ぎたのだろう。燦々とした日の光が眩しい。
「んー……あーあ、寝すぎたっかなぁ?」
記憶が確かならば、皆が依頼の仕事やら探検やらに行くのを見送ってからすぐに寝てしまっていたような気がする。
そうなると、朝の間中はずっと眠っていたということになる。少し時間を損した気分にもなるかもしれないが、前向きな彼にはそんな事知ったことではないだろう。やりたいと思ったことが出来たなら、一先ずはそれでいい。

「うーん、やることねえしなー……どうすっかな~」
そういうわけで、今からどうすべきかという問題に頭を回転させ始める。
まあ、今頭に浮かんできたのは寝るか起きるか、という二択なのだが。
「……ん~……よーしっ!寝るか♪」
結局、また寝てしまうのか。
キレイハナはいかにもスッパリ決めてしまい、そうして再度瞳を閉じる。

……閉じようとしたら──
「ただいま…です…」
きいぃ、といかにも勢いがない、元気のない扉の音。
見てみるとそこに、小さく開いたドアの隙間から入ってきたプラスルが見受けられる。
こちらも扉の音同様に沈んだように耳を垂れている。俯いていた。
元々薄い表情の中には確かにしょんぼりとした感情が確認できてしまう。
「おーうお帰り風音ちゃん!」
「あ……ヴェリエル、です……?」
「んーそうそう~♪どーした?元気ねーぞ?」
キレイハナ──ヴェリエルはパッと身を起こし、風音にへらりと笑いかける。
一度ヴェリエルを見て普段のような表情に戻ったが、それでもやはりどこか沈んだ雰囲気を漂わせている風音。
近寄っていったヴェリエルが尋ねると、少女はまた俯く。
ちょっと言いたくなさそうに感じられる。
「あ~……んーまぁ言いたくねえっつーのはよくある事だ。な?」
「……」
「ん……」
風音は黙ったまま。
こういう空気は苦手なのだが、さすがのヴェリエルもここでは無理に明るくしようとはしない。

どうしたものかなぁ~……。と考えていると、ふとあることを思い出す。
「そーいや、風音ちゃん。小僧とアーチェ君はどーしたんだ?」
そういえば今朝皆を見送った時、確か風音はアーチェ、風魔と共に依頼の地へ赴いていたはずだ。
それなのに今帰って来たのは風音一人。
何かあったのだろうかと考えていると、
「……風兄が」
恐る恐る口を開く風音。
「ん?」
「……風兄怪我したです……アーチェ様心配した、です」
「ん?ちょ、ちょと待て!悪ぃんだけど……よく意味分かんねえから、もっかい言ってくれっか?」
「……お尋ね者強いのです……でも倒したです。でも……風兄怪我したです……」
小さな声で再び話してくれるのだが、どうも部分的なところしか言ってくれないのでイマイチ理解しづらい。
おそらく、お尋ね者が強かったということもあって、それのせいで風魔がお尋ね者から攻撃でも喰らった、のだろう。
「んーまぁ……それは仕方ねえって!元気出せって風音ちゃ──」
「そしたら」
元気付けに肩を叩いてやろうとした手が、少女の言葉で叩く前に静止する。
まだ続きがあるのか?と思いその手を動かさずいると、
「ウチ心配したのです……アーチェ様もそうです……、……そしたら……そしたら、風兄が」
風音の声が徐々に小さくなり、しゅうぅと更に耳が下がっていく。
「『──オマエ邪魔なのだ、帰るといいのだ。ウチ一人だけで出来るのだ、オマエとっとと帰りやがれなのだ』……」
兄の言葉を口にだしたが、後にいくにつれ声は弱くなり、最後には消えそうな小さな声だった。

「……ウチ、風兄の足引っ張ったです……」
更にしょんぼりと項垂れて呟く風音。
(なるほどなあ……)
心の中で納得した。
風音は風魔を慕ってはいたし、やはり兄である以上は好きではあるだろう。
元々物言いのきつい風魔ではあるが、物事を深く考えてしまう少女には大きなショックになってしまったんだろう。
まだ残っている依頼を仕方なく風魔とアーチェに任せて、今の状態に──というわけだ。
(でもな~これ……)
今の言分を聞く限り、一見風魔は風音が足手まといだからという理由で帰させたように思える。
けれども、ヴェリエルからするとそれは違うような気がした。
「んーとなぁ、風音ちゃん?」
ヴェリエルは呼びかけると、留めていた手でぽん、と少女の肩を叩いた。
「小僧の阿呆には俺がまた言っといてやるから、とりあえず元気だしな。な?」
風音の目線に合わせてしゃがみ込むと、彼はニッコリと問いかける。
風音は以前として沈んでいるのだが、それでも彼の言葉の意味は理解しているようで、
「……でも風兄……」
「ほーらほらほら!まーたんな事ばっか言ってもキリないぜぃ?そんな時もあるってもんよ」
「……、……」
「それになー?それって小僧が風音ちゃん心配して言ったんじゃねえのか?」
あまりにも沈んだままの少女に、ヴェリエルがへらりと言う。
すると、
「…心配、です?」
風音はきょとんとヴェリエルを見上げた。
「そーよ♪小僧はなあ、きっと風音ちゃんに怪我させんのが心配でそう言っちまったんだろうよ?あいつ言葉の使い方下手くそだからさ~」
ホント馬鹿だよな。とヴェリエルが鼻で笑う。
一瞬ぱちくりとしていた風音だったが、どこか表情が和らいだのが確認できた。
少し安心したんだろう。ずっと垂れ下がっていた赤い耳がゆっくりといつもの位置にまで戻ってきた。
「そう、です?なら、いいのです……?」
「うんうん、いいっていいって!だから気にすんな♪」
「……そうする、です」
しっかりそう返してくれたのを確認すると、ヴェリエルはまたいつものように満足げに微笑んだ。
暗くなっているのは嫌いだから。それを変えれたなら、ヴェリエルには十分なんだろう。
両手を上に突き上げ伸びをすると、それからまた小さな少女に笑いかける。
「んーじゃ!とりあえず風音ちゃん疲れただろうし部屋戻りな?あいつら帰ってきたらまた教えてやっからさ」
「……そうするです」
促されたままに少女は静かに部屋へと戻る。ヴェリエルはそれを見届けた。

「はー」
風音の姿が見えなくなり、とりあえず一息ついてまたソファーに腰掛ける。
「驚いた……」
「ん?おー祈叶君か!」
すると、今度は買い物へ行ったシェイミ──祈叶が帰ってくる。
祈叶はそんな言葉を呟くとヴェリエルの元へと歩み寄る。
「驚いた、って何がだ?」
「だってヴェリエルが慰めてたんだもん。以外だなって思って」
買ってきたものを床において、祈叶が感心した様に述べる。
少し前から基地の外にいたようだ。
さっきまでの事を見るか聞いてかしていたんだろう。
当のヴェリエルはと言うと、そうか?と言いたげに祈叶を見た。
「小僧も小僧だっつーの。あいつ気の使い方が本当に下手だと思うんだよなー……」
妹思いなんは分かるけどよ、とごちると、
「確かにね」
と祈叶が返した。
チームの皆に聞いても同じ反応は返ってくるだろう。
それが風魔だ。
「なんつーか、こんなのはオレ慣れてっからさ」
「あはは、それは頼もしいなぁ」
軽く笑うと、祈叶は風音が消えていった部屋に視線を向けた。
その後何度かそちらとヴェリエルを見比べると、悪戯っぽく一言、
「何ていうか、ヴェリエル兄貴みたいだったね」
「うるせーって。兄貴は小僧だっての」
「えー違うよ。風魔と風音の兄貴」
「……はぁ!?」
「あはは、ゴメンゴメン!でもヴェリエル意外としっかりしてるからさ」
祈叶は笑って誤魔化すが、ヴェリエルから驚きの顔は消えない。
少し間が開いて、ヴェリエルが呆れたように口に出す。
「意外とって君……まぁ、でも──」
第一に祈叶への言葉の訂正を指摘し、次にまた間が開いて、何かを言おうとしたんだろう。
祈叶も何かと待ってはいたのだが、祈叶のその様子を見たヴェリエルは、
「──あー……やめたやめた!言うのやめたー」
「ええぇ何で?言ってくれたっていいじゃない!」
「いんや~言わねえぜ?」
少年は何度も何度も促したが、構わずヴェリエルはソファーに寝転ぶ。
そのまま瞳を閉じて寝たフリに入り、それでも祈叶はしつこく答えを求め続けた。
が、ヴェリエルがずっと口を閉ざしたままいると少年も諦めたのだろうか。
何か文句を言うと、荷物を携えて自分の部屋に戻っていった。

(オレが兄貴ねぇ……)
足音が部屋に向かっていくのを確かに聞き取ると、ぼそりと答えを溢す。
「悪くはねえかな~それでも」
楽しそうにぼやいて、ヴェリエルは二度目の昼寝に入った。
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