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小説置き場。更新は凄く気まぐれ。
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朝方しとしとと降り続けていた雨が止み、だいぶ上空に滞在していた灰色の雲はようやくどこかへ去っていった。
顔を出した太陽の色は鮮やかな黄色、時は夕方である。
地面も植物もまだ雨の後が残り、空気は雨の匂いを含んでいる。




川のほとりに立つ木々の内、随分と太ましく幹を育てた木がひとつ。
それほど大きいということもないが、細くひょろ長い木々が多いそこでは目を引くものではあった。

枝というよりも、それこそ通常では幹と呼べそうな逞しい太さのそれに深く腰を下ろした赤い姿、バシャーモの燕紅。
もたれ掛かるよう幹に体を、力なく預けたまま、ぼうっと遠くを見つめている。

(――晴れ、ましたね)

目下を流れる清流はきらきら夕日を跳ね返す。
その少し先に展開する森は逆光を帯びている。
地平線は、木々の海でどこだか見えない。

この高さから見る景色はいつもと一風違う。
目線が高くなったのだから、当たり前と言えばそうなのだが。
今まで見えなかった場所にまで目が届く、気付かなかったところに気が付く、視野が、開ける。

(……ここから見れば、空も近いのでありましょうか)

所詮は背丈の数倍しか高くはないのに、空へはまだまだ遠いのに、それでも世界がこうも見違える。
それは空が大きすぎるのか、自分がただちっぽけなだけなのか。



(七夕、でしたか)


世界は広すぎて、会いたくても会えない。

星の数ほどいる中の、たったのひとり。

見えているのに、届かない。

近いようで、とても遠い。

雲がかかれば見失い、雲が晴れても数多の中から見出だせない。

ただひとつ、小さな星がいとおしくて仕方ないのに、

その星が見つけられない。





「……たな、ばた」



今日は星に願いを馳せる日なのだと聞いた。



(信じる者皆が星に願うと)



願いはいつかきっと叶うと聞いた。



(星の数もの願い全てがはたしていつ叶ったのかはわからない)





叶うならせめて、もう一度、






(叶わないのなら、いっそ)





話を、させてくれませんか。






(最初から、巡り会わないほうが良かったのでしょうか)



(拙者はいつから、貴女に惹かれていたのでしょうか。ええ、きっと、初めて会った時から、拙者は――)


虚ろな青い目に映る夕焼けが、闇の色に染まってゆく。
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