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小説置き場。更新は凄く気まぐれ。
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それはまだ太陽が真上にも昇っていない朝の事──



「~♪うーんいい天気♪」
まだ少し低い位置の太陽を見上げ、青い空を仰ぎながら大きな独り言を口に出す。
上機嫌のニャルマー、スピネルの足取りは見て分かるほどに軽い。
少し早足で目的地である市場へと続く森の小道を進む進む……。

「はぁ、眠い……」
そんなスピネルとは対照的に少々うつろな目を擦りながら、スピネルの尻尾──ニャルマーの特徴であるバネのように巻いた──を耳に巻き付けられているブラッキー、ラルフ。
ゆっくりと歩みたいが、引っ張られているのでほとんどスピネルと同じ速さで歩いていく。
スピネルの機嫌の原因なるのは勿論このラルフなのだが──
「ったく……舞羽も昼飯の材料くらい自分で買いに行けばいいだろ……」
スピネルの後ろでボソッと、今の状況の原因を作ったピジョンの陰口なるものを呟く。
「いいのいいのそんなこと気にしちゃダメだって!舞羽は依頼の仕事なんだしあたし達は休みだったんだからさ♪」
その聞こえないくらいの大きさだった呟きが聞こえたのか、スピネルはやはり上機嫌で言葉を返し、
「それにラルフ、暇、暇、暇、暇言ってたよ?」
……と一つ付け加える。
「だからと言って食料の仕入れに行きたかったわけじゃないんだが」
「いいのいいの♪とりあえずレッツゴ~!」
「ハイハイ」
ラルフの分かりやすい溜息が聞こえたのかどうかは分からなかったが、御機嫌なスピネルにはそんなこと少しも気にはならなかっただろう。
右前足で睡魔に負けそうな目を軽く擦っているラルフを引き連れ、スピネルはそんなことには気もつかずに進んでいった──


市場には多くの食料品などが所狭しと並んでいた。
それだけではなく離れた所に商店街があるため、多くのポケモンがいろんなものを仕入れにここへ来ていた。
「えっと~あとは林檎……リンゴが三つ……三つ──」
白い紙切れを右の前足に、左の前足はラルフの前足を押さえるように握った状態で、紙切れの内容を何かの呪文のように読み直す。
左のラルフはといえば、空いている背中にさっきまでに買った食材の入った少し大きめの紙袋を器用に2つ乗せ、手提げのついた紙袋を右の耳に掛け、小さな紙袋をひとつくわえている。
実際に何かを買ったりしているのはスピネルなので、自然と全ての荷物は自分に回ってくるのだ。
……そうでなくてもお人好しのラルフは自然と荷物を持ってしまうだろう。
(あいつ昼飯どれだけ作る気なんだ……)
くわえている紙袋を見て、再び今の状況の原因の舞羽を思い出し、心の中で舌打ちする。
(大体、琥白も今日は休みのはずだから、あいつにも頼めばいい筈だ。ならなんでわざわざ俺とコイツに頼むか……)
そんなことを思っていることなど、勿論分かるわけのないスピネルは、店員のチェリンボから林檎が入った小さめの紙袋を受け取り──
「ねぇラルフ、まだ持てる?」
尻尾で持ったその袋をラルフの前に出し、にこりと笑う。
別に嫌がらせではなく、機嫌がよくて仕方ないスピネルはラルフが少し無理して荷物を持っていることにも気付いていないだけで、
「……まだ、いけそうだが?」
「本当?じゃあお願いするねラルフ♪」
お人好しなラルフはやはり了解してしまい、スピネルは何にも気づかず小さな袋を背中の2つの上に積み上げた。
リンゴ3つはずっしりとしており、案外重い。

「で、一つ聞きたいんだが」
「どうかした?」
スピネルは袋からゆっくりと尻尾を離し、そのあと怪訝そうに首をかしげた。
それを見、一度周囲を見回す。
「……さっきからずっと繋ぎっぱなしのこれ、いつになったら放すんだ?」
周りに目をやったあと、自分の右前足に視線を落とす。
その上に重ねられた、スピネルの左。
「ここに来てから一度も放さないし周りの視線もあるんだが……?」
そう話している最中にもちらとこちらを見やり何か話している人もいて、仲のいいカップルだとか言う声もちらほら聞こえてきている。
実際ここに来てからずっとこの調子だ。
「あー……そういえばそうだったね、ラルフ嫌だったの?」
「別にそういうわけじゃないが」
もしそうだとしても嫌だった、などとは言えないだろう。
言ってしまえば彼女が少し傷ついてしまう事くらいラルフには分かっている。
「ホントに?」
「……ああ」
何故か確認してきたスピネルは、ラルフがそうしっかり言ったのを聞き、何故か先ほどまでよりも表情が明るくなる。
すると一つ小さな溜息のようなものをつき、にこりと笑う。
「うん、よかった!ただのお人好しじゃないみたいで」
彼女はそう明るく言い、続ける。
「あ、ホントは荷物重かったんだよね?少しあたしが持つからさ、ね!」
「あ、ああ……」
ラルフがそう言う前に、スピネルはひょいとさっきの小さい袋とそのすぐ近くにあった木の実やらが入ったものをラルフの背から持っていく。
「ごめんね、気付かなくて……」
袋を2つ尻尾で持って、苦笑する。
パッと、彼女の左前足がラルフの右から離れた。
「じゃ、帰ろう!早くしないと舞羽が帰ってきちゃう」
再び上機嫌な笑顔を向け、今度は少しゆっくりと──行きのラルフと同じくらいの速さで歩き出した。
それにつられ、ラルフも足を進める。
どうやらスピネルも、ラルフのお人好しに気付いた様で──


「──あっ!!」
それから少し歩いたところ市場のすぐ近くにあった商店街で彼女はとても明るい、今までよりもテンションが上がったような声を出した
「どうかし……──は!?」
直後、ラルフはいきなり持っている荷物を落としそうなすごい速さで引っ張られる。
荷物を持った状態であるにも関わらず、スピネルはその尾でラルフの耳を巻き取り、駆け出したのだ。
スピネルは、ピタリと一つの小さな店の前で足を止めた。
「な、なんだよいきな……」
苛立ちながら顔を上げたラルフは、視界に映ったものを見るなり言葉を打ち切る。
まるで縁日の屋台くらいの大きさの小さな店、そこに色々なペンダントや髪飾りなどの装飾品が所狭しと並べられていた。
「うっわぁ~すっごいキレーね!これもいいじゃない!」
今までよりも高い声をあげ、スピネルは並べられてある商品の中から一つを手に取った。
(そういえばコイツはこういう綺麗な物を見ると可笑しくなってしまうんだったな……)
などと呆れてしまっているラルフの横で、
「フフ……ね、ね!ラルフはどれがいいと思う!?」
目をキラキラと輝かせながら問うスピネル。
現にスピネルのテンションは最高潮になってしまっていて、ハッキリ言ってラルフはついていけない。
「スピネル……金あんのか?」
コイツの事だから持っていないなんて事は無いだろうと思ったが、今一人別世界に入り込んでいるので軽く呼びかけのつもりで尋ねてみる。
しばらくは商品に見とれて返事すら返してこなかったが、
「……あ……」
そういえば、とでも言いたそうないつも通りの明るい声を上げた。
「……忘れたのか」
「そ、そうだった……」
「……はぁ……舞羽にお使いの分渡されたから、すっかり持ってきてるつもりだった……」
さっきまでの上機嫌はどこへ行ったのやら、しゅうぅと耳が垂れ、首を垂れた。
その手の中で何かが煌いたのがラルフには見える。
「それは?」
「え……あ、コレ?さっき目に付いて、とってもキレイだったから買おうかなって思ってたんだけど」
そう言い、ラルフに何かを手渡す。
黒い髪留めが二つ、一つには少し紫がかった赤色のビーズのような飾りがついたセットのようで、ラルフの手の内で光を跳ね返している。
「なんで忘れちゃったんだろー……」
「……」
「ラ、ルフ……?どうかした?」
「おいアンタ。これ、どれくらいするんだ?」
しばらくスピネルには答えず、ふと、近くにいる店の人に声を掛ける。
店主と思われるガーディは振り向き、ちらとスピネルに視線を移したあと、
「ああ、それなら500ポケだよ。そこの彼女にやるのかい?」
と茶化す。
「ま……そんなもんだろ。とりあえず貰うぞ、コレ。」
「ちょっ……ラ、ラルフ!」
店主の質問に肯定の答えをし、例の髪飾りを渡そうとしているラルフに何かいいたげに口を開くスピネル。
その顔は薄く染まっていたが、ラルフはそんなことには気付かず、
「じゃ、頂いてくから」
チャリーン、と小銭が店主の手へと滑り落ちる金属音が耳に届く。
「まいど!よかったな嬢ちゃん!」
「あ……」
店主がニッと笑うのと同時に、自分の手に何かが触れる。
それは紛れもなく自分が欲しがっていたものだ。
「欲しかったんだろ?それが」
何事も無かったかのように振舞うその声に顔を上げると、こちらを見て首を傾げるラルフの姿。
「買ってくれなくてもよかったのに……」
「別に、俺が買いたかったから買っただけだ」
どうでも良い事の様に素気ない言葉を返すと視線を横にずらす。
それを見、思わずスピネルはくすりと笑った。
「やっぱりラルフはお人好しなんだよ♪ありがとね!」
「礼を言う事でもないだろ。さ、戻るぞ」
今度は先にラルフが歩みだし、いつものような少しゆっくりした速さで進む。
それに並んだスピネルも歩調を合わし、御機嫌に進む。
その身にはいくつかの荷物と、小さな贈り物を携え。
耳元に小さな髪留めを煌かせ、真上に昇りつつある太陽は基地へと戻り行く二人を暖かく照らしていた──

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■ラルフ(ブラッキー♂/救助隊リリーフ)
■スピネル(ニャルマー♀/救助隊リリーフ)
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