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小説置き場。更新は凄く気まぐれ。
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(この刀はね、闇姫というんだ)

慌ただしかった日々がようやく、終わりを告げようとしていた。
これを境にして、また俺達は今まで通りの暮らしをしなくてはならない――もっとも、あいつがいなくなった今、全く同じ通りではないだろうが……。

「……ったく……いなくなんのなら部屋の整理してからにしろっての……」
主人が消えた和室の奥。
俺は奴に許可を取ることもなく、無断でその部屋を片付けた。
許可を取れなかった――取らなかったというよりは、そのほうが事実に近い。
取るにしても奴は消えた。もうあいつの許可など一生取れないのだ。

隅に置かれた小型の本棚の整理に始まり、床の間の埃掃除に始まり……わかった事と言えば、簡単に人目につく場所に片付ける要素はなかったということだ。
本棚は資料から歴史書、また小説と細かく種類に分けて揃えられていたし、床の間も手入れがされていたようなそれである。
問題はあと一つ。
俺はゆっくりと意識をそちらに向けた。
部屋の一番奥は床の間であり、その隣には出入り口に扱っているのと同じ襖がある。
これが別の部屋への扉でないことは知ってはいるが、だからと言ってなにがあるかもイマイチわからない。
俺は襖に手を掛けた。この中は物置……要は押し入れだ。
そしてそれを、手前に滑らせるように、引いた。
襖はガタリと一度引っ掛かるように音を立てたものの、そのあとはなめらかに水平に移動する。
中から雪崩のように物が崩れるような惨事は起こらず、心のどこかで息を吐く。
ゴトリ、とそこから何かが一つ、滑り落ちた。
「?これは――」
細長く、包みのように黒い布が巻かれたそれは全貌を露にせずとも刀だと解釈できた。
よくもまぁ、こんなものを隠していたものだ。
見たところ埃も被っていない。布にシミやほつれた様子なども見当たらない。
となると、それなりに最近手に入れたか、あるいは幾らか丁寧に扱っていたか……そんな考えを巡らせながらも俺は刀を広い上げ、無造作に巻き付けられている布を解いた。
しかし――。
「……んだよ、これ……」
黒い布を剥がして露になった鞘と柄。
布よりも美しい鞘の黒が鈍く光を受ける。
鞘は刀の切っ先に当たる部分から柄に向かって、複雑にかたちを歪ませながら緑の模様を走らせる。
柄も同じく美しい漆黒を持った糸で紡がれていて、その先端には金色の金具。
鐔だけは透き通った銀色を光らせていた。

思わず息を飲んだ。
俺はこの刀をよく知っている。
ここに来てから飽きるほどに見ていた。
いつもあいつが引っ提げていた、これは、“あの刀”に違いは無いと悟った。
おかしい。おかしいだろう。
片時も離すことの無かったあの刀がどうしてこんな扱いを受けているのか。
しかし連日、確かにこれは見当たらなかったはずだとは頭の隅に理解する。どこにも、なかったのだ。
となると、これはあいつがこうしたと言うのか?何故?何のために?
「……まさか」
そう考えてふと、あいつは全てを知っていたんじゃあないかという答えが浮かんだ。
どうしてそう思うかは、なんとなくだったが。
もやもやとした感情を抑え、俺はゆっくり刀を抜く。
鞘と柄の距離が離れ、徐々に真の姿を見せる刃。
その全てが見えるより前に、確信はできた。
だから刀の先端まできたところで、俺はすぐに鞘へと戻した。

――闇姫と云うんだよ。

覗かせた刃は漆黒だった。
幼少の頃以来見ることの無かった、懐かしい、漆黒だった。
「……よぉ、闇姫」

部屋に赤い夕日が射している。
先程の一瞬、刃がその漆黒に夕の煌めきを受けていた。
……周り一帯が薄く夕色に染まる時間が好きだと、あいつが言ったのが過る。
あの時はわからなかったが――今は何となく、その良さがわかる気がした。


――――――――――――――――――――――――
■カンフィス(ランターン♂/鬼月陰)

永夢さんがいなくなってからの闇姫の話。
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