忍者ブログ
小説置き場。更新は凄く気まぐれ。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

(訪れた夜。ついに猫たちはゴースに囲まれてしまい――)

「――でー、ボクは相手の心の波動が見える特技を持ってるんだー」

彼はニコニコとそう呟く。

……といっても、思い切り走りながら――逃げながらと言った方が正しい――だけれど。

「だ、だからオイラたちの名前もすぐ分かったんですね……!」
「うんー、そうだよー」

そののんびりした話し方は全くと言っていいほど今の状況に合わず、どこかじれったくなってくる。
そう思っていた猫よりも先に、

「おいクビャク!どこまで走るんだよ!?攻撃しかけたっていいじゃねぇのかよ!」

ユリウスの手を引きながら少し後ろを走っているブライがいらいらしたように吐く。
どうやらユリウスの体力はそう持っておらず、逸早く気付いた彼女は言ったのだった。

「そうだねーもう少し先ー――あー!」

しかしクビャクはいきなり足を止める。ぶつかりそうになって猫もギリギリで踏ん張る。

「ど、どないしたん!?行き成し止まって!」
「んーっとー、なんかゴース達が僕達を取り囲みやがってるみたいでー」
「はぁ!?」



▼10話 ねこのて



猫の問いにさも落ち着いて答えているクビャクにも驚くが、その事実にも驚愕してしまう。
そこにタンゴが恐る恐る問うと、

「つ、つまり……囲まれたってこと……ですか?」
「そうなるねー。大体30くらいの心の数がするよー」
「え……さ、30……そんな、に?」

琥白は感じている心の数を指折りながら――フライゴンには3つしかないのだが――数える。

「やっぱり30だねー」

と、恐る恐るこちらを伺っていたユリウスに教えて見せた。

「そ、そんなんこんな所で止まったらアカンやないか!!」
「そうだぜクビャク!まさかここで蹴散らせって言うのかよ?」
「ううんー違うよー?」

猫とブライの質問に、彼は首をフルフルする。


「ねこのて、だよー」


代わりに猫をじっと見て、やはりニコニコと呟く。
……どうしてこんな危機的状況にまでニコニコできるのだろうか、いつも笑っている猫にすらさっぱり分からない。


「ねこのて?」
「うんー、そうだよー」
「な、何なん?それ?」

やはり猫はここの事をまだちゃんと知っているわけではないよう。
「ねこ」という言葉が入っているあたり、少し疑問が増えた気もする。

「技だよー。お前が持ってるねー」
「んな技って言われても」


実際技と言われて思い浮かぶのはクサリのシャドーボールくらい。
自分の技、と言われても、今まで一度もそのようなもの使ったことがない。

「そんなん言うたかて……俺出来るかどうか……」

その時、猫の耳を何かがかすめる。
ほかの皆には聞こえていなかったらしい、猫にしか聞き取る事の出来ないような小さな声だ。
身に覚えがある、これはゴースの笑い声のはず。

「本当だねー近づいてきてるよー」

そんな猫の心を読んで、一人クビャクが返事をする。
やはりタンゴ、ユリウス、ブライには何のことかいまいち分からないよう。
まるでクビャクの発言はとりあえずさっさとやれと、言ってるように聞こえてくる。

「――あーっ分かった分かった!俺がやったらそれでいいんやろ!?」
「そうそうー。なんだーちゃんと分かりやがってるじゃないー」

さりげなくクビャクの本音が漏れた気がする。
しかしそんな事深く考えたって琥白には見えてしまうだけなので置いておく。
皆より前に出て、深く息を吸う。

「サイコキネシス……!」

皆から離れた直後、ユリウスが何か呟き、背後でカサカサと木の葉の音がする。
見てみるとそこにはドーム状の葉っぱの防壁が、皆を隠しているかのように包んでいる。

「だってお前の攻撃が僕たちにも当たったら痛いでしょー?」
「ま、とりあえずどうにかしとけよ!」

こちらが不快そうにそれを見ていると、クビャクののんびりした声と、活発なブライの声が投げられてくる。

「そんなんあるんやったら最初からそれやればよかったんやないのか!?」

あまりの出来事に声を出すしかない。
しかしその問いかけには誰も応じてくれなかった。
かわりに聞こえてきた、嘲笑。


「何なんさ……もうきたん……?」


ゆらりと黒い塊が近づいてくる。
点々と、その数は増えていって、辺りを見渡すと琥白の言うとおり30ほどのゴースに取り囲まれている。

「さー早く早くー!ねこのて、だよー?」

何をそんなに急かすのか、のんびりした声が嫌味に聞こえて仕方がない。

「あーあ……失敗したかて怒らんといてよなあ」

はっきり言ってどうやって技を出すかなんて分からないけれど。


どうにかなる気がして、彼は大きく息を吐いた。


「ねこのてッ!!」


途端猫を中心として、どす黒い波動が周囲に波打った。




「あー、やっぱり悪の波動だったかー」
「やっぱり?」

葉のバリアに守られていても、少しの衝撃は伝わってくるようで。
そんな呟きをした彼に、タンゴは怪訝に尋ねた。

「んっとねー、どうもさっきから僕らの仲間が近くにいるみたいでねー」

「な、仲間?あなたたちの他にも誰かいるんですか?」
「そうだぜ?俺らリリーフは全員で6人だ」

クビャクに対する問いに、ブライが答える。

「で、今日はアイツがここにこなきゃいけねぇとか言ったから全員と+aでやってきたんだ」
「え、アイツ?ぷらす……って何のことですか?」
「え、えっと……」

名前で言ってくれないのでタンゴにはよく分からない。
ユリウスが説明しようとするが、分からないうちにクビャクが、

「あー、近づいてきてるみたいだねー」




「え、えええ!?な、何なん今の!?俺がやったん!?」

周りの状態を何度も認めて、が信じられないようで猫は軽いパニックに陥っていた。
周りには沢山のゴースが気を失って倒れているのだから。

「つーか、あれがねこのて?えらい大層な技やったけど……」

そんな事をぼやいているうちに、カサリと、微かな足音が耳に入る。


ゴースは浮いている為足音は出ないはず……なら、クサリかラナだろうか?
そう思いながらももしもの為に構えを取り、音の方向である背後を振り返った。

「あれ……誰?アンタ?」

しかしそこにいるのは自分の仲間でなければゴースでもない。
真っ黒い、ユリウスとは対照的な容姿のポケモン。
その姿からはうっすらと月を思い浮かべる事が出来た。

「……聞きたいのは俺のほうなんだが」

彼はそう呟いて緑の塊――ユリウスの能力により出来たバリア――を見る。
そして呆れ気味の息、もとい溜息をつく。


「あー、やっぱりラルフ君だー」


そこでバリアはひらりひらりと崩れていって、顔を出したクビャクは開口一番、いかにも呑気な声でそう言った。
PR
 HOME | 49  48  47  45  44  43  42  41  40  39  38 
忍者ブログ [PR]