忍者ブログ
小説置き場。更新は凄く気まぐれ。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

(ある日のこと。猫が見た夢に導かれ、一行はあの森へ――)

確かに、あれは夢だった。
はっきりとは覚えていない、ただ真っ黒な世界。
何も見えない、『オト』だけが響く世界。
そしてその中で確かに、確かに聞こえた声がある。

――君を待ってる、あの森で……

森?そう尋ねたくても自分の声は一切響かない。
変わりに錆びれた鐘のような音が鳴り響き、そしてまた声は響いてくる。

――あの子が、来るよ。あの森へ……

あの子…?それが誰だか分からなかったが、聞くこともできない。

――あの子を、夜が来る前に。見つけて…

世界はそこでぐにゃりと歪み、黒の空間は反転。白く変わった世界は、夢の終わりを表していた。


そして目が覚めた彼の視界に移ったのは、普段から見覚えのある者だった。


「?…どうかした?今まで寝ているなんてあなたらしくないね?」
「…いや…別、に…」

空けられた窓から差し込んでいたのは間違いなく、真昼の日差しだった。

(…あの子…森…?)



▼8話 夢の中の『あの子』


「クサリ!」


それはもう真昼間の時の基地での事。
いつものような呑気な声を発して、部屋から出てくるなり猫は言う。

「行くで!あの森に!」
「…何のことだ?」

唐突の発言に、クサリは何と答えてよいか分からない。
今日は今の今までずっと寝てた猫が第一声に口に出したのがそれだからだ。

「今まで寝てたと思えば…森だと?いったい何処のことだ?」
「俺が初めてクサリと会った、あの森や!」

猫はきっぱりと言い切る。
彼女も思い出したかのよう。おそらく猫が言っているのはあの『幽霊の森』だろう、とクサリは推測する。
自分が猫と初めて会った場所と言うとまずそこしかない。


「で、何故だ?」

一番知りたいのはそれだ。猫もあの森がどんな所なのかを、その身をもって味わったはずだ。
そんな森にわざわざ行きたがる理由が全く分からない。
「夢を見たんや」
「夢?」

さっきから的確に返事を返してくるのだ。
猫が見た夢が何なのか、少しばかり彼女も気になるところだ。

「真っ暗な場所やったかな?何にも無くて音しか聞こえへん。そこで聞こえたんや。」


――…あの子が来る。あの森に来る。あの子を見つけて。夜までに…


「夜までって言えばあの森しか浮かばへん。そやから行くで!あの森に!」

そうでなくても今までの探検で言った場所も含めると、猫が行った事のある森は幽霊の森しかない。


しかしクサリには一つ、引っかかることがあった。

「…真っ暗な…」

クサリの脳裏にあることが浮かぶ。
まるで猫の言っているそれはクサリが猫と会う前に見た夢と同じなのだ。
あの夢と同じ鈴の音が聞こえ、そこにいた猫…これは、もしかすれば…



「ただいま戻りましたよー姉御!」
「お、ニャンコーやっと起きたんだぁ♪」


基地の扉を開け、落し物の依頼に行っていた二人が帰ってくる。
丁度いい、そう思いクサリは二人に呼びかける。

「二人には悪いが…早速別の仕事だ。」
「ん?何々お姉様♪」

ラナがクサリにつけたニックネームを口に出しながら楽しそうに尋ねる。しかしクサリの代わりに返事を返すのはその別の仕事を作ったとも言える猫。

「森に行くで!幽霊の森に!」

猫もまた楽しそうに口に出した。




「…で、あの子って誰なんですか?」
「さぁ?俺にも分からんのよ。」


暖かな木漏れ日溢れる森の中でタンゴの質問はすぐに答えをもらうこと無く終わってしまった。森に入って数十分経ったくらいのことである。


「ところで、今何時くらいなんですか?」
「5時くらいじゃないだろうか…基地を出たのがその少し前だったからな…」
「日って何時頃沈むんですか?」
「猫と会ったときは6時くらいだった気がするが…」
タンゴの何気ない質問にクサリは淡々と答える。
それを聞いていて何かに気がついたラナがそっか、とでも言うように声を出した。

「あー!タンゴオバケが怖いんだぁ!」
「ち、違うさ!?大体それくらい何ともないに決まってるだろ!」
「ふーん?」

思いっきり動揺しているタンゴを見やりくすっと小さな企みの笑いを零すラナ。
「じゃあさ…」

何を思いついたのか、いきなり皆を呼び止めてラナがクスクスと笑う。

「皆で分かれて探そーよ♪その方がすぐに終わるしさぁ!」

そう呟きながらちらとタンゴの様子を伺っているのは猫やクサリにも分かる。ましてやタンゴはすぐ感づく。
そのまま慌てたようにラナに言う。

「な、なんでそうする必要があるのさ?別にこのままでもいいじゃんか!」
「え、だって早く終わった方がいいじゃん?」

それとも怖い?とタンゴをからかう様に呟く。さすがにタンゴは何も言えなくなってしまう。

「じゃ、皆で別れるに決定でいい?ニャンコにお姉様?」

クルリと二人に向き直ったその顔は、どこか楽しそうに見える。まあ実際楽しんでいるのだが…。
そんなことを知ってかしらずかクサリはいいだろう、と首を縦に振る。

「まあ、確かにその方が夜までに見つかるかもしれへんしなぁ」

それを見て猫も了解する。してしまう。

「んじゃ、けってーい♪因みにアタイはお姉様について行くから!」
「な、なんでさ?分かれて行動するんだろ!」
「だってアタイ怖いもん♪」

もちろんそれが嘘だと言う事は見え見えなことなのだが。
タンゴは何か言おうとしたが何も言えなくなり、

「もういいよ…オイラ一人で探しますよ…!」
もうヤケになってしまっている。

「なら早く見つけようか…夜のこの森は危険だ。日が暮れてきたら基地に戻れ。分かったな?」
「はい…了解です姉御…」
「オッケーやで~♪」

クサリが最後にそう確認して皆を見回す。
猫はそれを確認すると早足に、誰よりも一番初めに進みだした。

「んじゃ、俺は先に行かせてもらうで~。皆気ィつけて探してや!」

ヒュッと見事な跳躍で近くにあった手ごろな木の枝に飛び乗る。
彼の身体能力の高さゆえにできることである。
そのまま近くの木々から突き出た丈夫そうな枝を選び、飛び移るように瞬く間に奥へと姿を消してしまう。


「なるほどな…」

今までどうやって木の上に上っていたのかようやくクサリにも分かった。身軽な彼を見送って、彼女らも進みだした。



「…って言っても何処探せばいいんやろ…」

とある木の枝でいったん踏みとどまり、猫は一度辺りを見回す。
何処までも続いている木々と頭上に広がる木の葉。それ以外に見えるものといっても、コレといってない。
何処を探そうかと悩んでいる間にも、日没は徐々に近づいてきている。


――夜までに…


夢の通り、夜までに探し終えなければ。日が暮れるのと同時にゴースで森が溢れかえってしまう。
そうなれば探すどころか逃げなければならない。また、『あの子』が襲われる可能性も十分あるのだから。
ふっと考えることを止め、葉と葉の間から伸びている光が少し細くなっていることに気がつく。

「急がんと…でも誰や、『あの子』って…?」


ザワリ。


その時ふと、風のざわめきと共に何かの声が耳を掠める。遠くのほうで呟やかれたと思われるそれは聴力の良い猫の耳に届いていた。


「うわあああっ!?」


「!?なっ…」
今度は確りと、耳の奥に届けられたそれ。その声の方を瞬時に探り当て枝を蹴る。紛れも無くその声の主はタンゴだった。
ここからそう遠くも無いはず、大きさでそう判断し、猫は地面に着地する。
木々を移動するよりも地を走った方が速いことくらい知っている。そのまま駆けて行く。


「タ、タンゴ君!?」

そして少しした辺りで。茂みの前で力が抜けたように座り込んでいるタマザラシを見つけ駆け寄る。こちらに気がついたタンゴは恐る恐る、と言ったように見上げてくる。

「ビョ、猫さん…どうかしたんですか?」
「どうかしたはそっちやろ!?何なんよ今の叫び声!」

スッ―…と目の前の茂みを指差して、タンゴがぼそりと言う。

「そこから…何か二つに裂けた物が…」
「裂けた物…?」
「オイラが驚いて声出したら…茂みの向こうに引っ込んじゃいましたけど…」

いったい何を見たのかは分からないが、タンゴの言っている事が嘘には思えない。
とりあえずまだ夜ではないことからゴースでは無いと思うが…

「この…後ろ?」

恐る恐る猫は草の向こうに背を伸ばす。しかし彼が想像していたようなものは何一つ無い。

変わりに見えた、淡い紫の毛並み。
そこで彼が目にしたのはオバケでも何でもなく…


「…うぅ…ブライぃ…」


怯えきって尻尾を丸めたエーフィだった。
PR
 HOME | 47  45  44  43  42  41  40  39  38  37  36 
忍者ブログ [PR]