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小説置き場。更新は凄く気まぐれ。
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(ラルフに好感を持てない猫は――)

「な、なぁ?」

森を駆ける中、少し先を進むクサリとラルフに声を掛ける。
夜が訪れゴースが出現し始めたのでタンゴとラナ、それからオバケが苦手なユリウスの三人はスピネルに付き添われて先に帰ることとなった。
ブライとクビャクはリリーフの仲間であるというとある姉弟を探しに行った為、三人――猫とクサリとラルフ――は「あの子」ことラルフの姉を探す事になったのだ。


「どうかしたか?」
「いや、スピネルは『あの子』の種族とかぜーんぶ教えてくれたけどさぁ……俺ジュゴンなんか知らへんのやけど」

振り向いたクサリに当たり前のように言っていたのを聞き、

「……アンタも人間か?」

と、今まで関心がないような態度をとっていたラルフが口を挟む。
どうやら彼も猫のポケモンに関しての知識が薄い事からそう読み取ったのだろう。
しかし猫はそれが耳に入るなり驚いたように顔を歪める。

「そやから、俺のどこが人間に見えんのや?初めてクサリに会った時にも同じ事言われたけど……俺はネコ!人間なんかと一緒にせんといてくれへん?」

ラルフにキッパリ言い切ると、自分が投げかけた質問を聞こうともせずにつかつかと当てもなく進みだす。明らかに機嫌が悪い。
さっきからラルフに対してはどこか冷たい態度をとっているようにも見える。
ラルフはそれに感付きつつも更に言葉を掛ける。

「……ジュゴンがどんなのか聞かなくていいのか?」
「もうええわそんなん。……俺一人で探すで、ついてこんといてよな」

やはり依然と捨てたような言葉だった。
猫はそれだけ言い残すと近くの高い木の幹に足を掛ける。
そのまま蹴るようにして枝にまで飛び乗ると、暗い暗い森の奥に身を消してしまった。



▼12話 大木の下で



「あーあ……やっぱ種族くらい聞いといた方がよかったやろか……」


とある大きな木の枝に座り込み、猫は小さな後悔を口にする。
その木は優に10mを超えるような巨大な木で、森からひょっこりと背を突き出している。
そのてっぺんに近い枝から「あの子」を探そうとしたのだが、暗いのとあまりにも木が多いのとで無理なことである。
「けどなあ……人間っつったらさあ」

ハッキリ言って人間に良いイメージが無いなぁ、とぼやく。
猫にはちゃんとエネコロロに変わる以前の記憶はあるので、その頃の人間のイメージはちゃんと残っているのだ。
そういう訳もあって、ラルフには冷たく当ったというのだろうが、

「あーもう!あれやとラルフ怒ってでもおるよな……!どうしよ、ちゃんと謝った方がええやろか~……」

猫の気の良さというのは全てのものに通じているよう。


軽く頭を抱えて悩んだ挙句、やはり結果は簡単に謝る、と出てきた。
まあ彼自身ピリピリした感じは苦手であり、一方的に悪かったのは自分だと分かっていたのだから。

「そうやな!ちゃんと謝らんと!」

そうやって一人納得したように頷いて、勢いよく立ち上がった。


――バキッ


「……え?」

あまりにも唐突な鈍い音に、猫は一瞬わけが分からなかった。
それはまるで枝が折れるような音……いや、それそのものだったのだから。
どうやらこの木は相当な古木であるようで、立ち上がる勢いが折れる原因になったのだろう。


……。

…………。

…………ってことは?


「――はああああぁ!!?」


あまりに急な出来事に、やはり猫は真下へと落ちていく。
途中多くの細い枝や葉に激突しながらどんどん地面が迫るのが見える。

「え、な、ちょと待ち――痛ッたぁあ!!?」

途中の木々にぶつかったりしたのが原因だろう、地面との距離が測れず珍しく着地に失敗してしまう。
ネコなら空中で姿勢を整えて確りと足で着地することは当たり前であるのに、思い切り背をぶつけてしまったのだ。

「う~……何なんさぁもう……最悪やー」

そうやって呟きながら頭を押えると、ヨロヨロと立ち上がる。
しかしそうしている間にも、彼の耳は決して衰えることなく微かな囁きを聞き取った。


――うわぁ!凄いよお姉ちゃん♪傷だらけだったの全部治ってるー

――ううん、怪我が治ってよかったわ。もう喧嘩したらダメよ?

――はーい。ありがとーう!


おそらく音量からして結構近くだろう。
瞬時に方向を探って、落ちた時の衝撃が痛いながらにも駆け足で進む。




やはりそんなにも進まない程度の場所で、猫はとある影を発見した。
ゴースとは全く違う、真っ白なポケモン――いわゆる、それがジュゴンなのだが、猫はそんなこと知らない。

「――あら?あなたも怪我ばっかりで、喧嘩したの?」
「え…?」

こちらと目が合うなり、彼女は少々早足に駆け寄ってくるので一瞬疑問の言葉を漏らす。
突然猫の左手をとると、さっき落ちた時にできたすり傷を指摘する。

「そこまで大したことはなさそうだけど……手当てするに越したことは無いものね」

そうやって独り言を言ったのを聞き、猫がおずおず返事する。

「い、いやね?アンタが言った通り大したことないで手当てなんか別にやらんくても」
「いいえ、少しの怪我から大きな病気に発足してしまう事だってあるでしょ?」
ジュゴンが手当てしようとしていたのを止めようとしたが、彼女も譲らない。
初対面でこうキッパリ言われるので、猫も一瞬戸惑うが本当に手当てするほどの怪我ではない。

「でもそんなん悪いやん?これ位一日したら治るから……」

そうやって再び止めようと思って左手を動かそうとした、同時に。

「動かさないで!手当てくらい大したことないから」

彼女は左手の微々な動きに気付いて、動かないようにがっと押さえ込む。
呆気にとられていると彼女から何かやわらかな光が発せられたかと思うと、猫の傷は跡形も無く消えていた。

「あ……ありがと!……ってえええ!?」
「オバケの子供達が怪我だらけで泣いてるかと思ったら……今度は怪我だらけのネコなんだもの……最近は喧嘩が流行してるのかしら……?」

数秒の間に無くなった傷に気付き声を上げる猫をよそに彼女はそんな事を口にする。
その中のとある言葉にすかさず猫は気付いたのだろう、

「え、ア、アンタ今ネコ言うた?」
「ええ……?そうでしょ、あなたどこからどう見てもネコじゃない」

彼女はさも当たり前のように言ってにこーっと可笑しそうに笑った。

「アンタまさかやけど……元人間?」

恐る恐る尋ねると、ジュゴンは優しく返事する。

「フフ、そうなの。気が付いたらこんな風になってたけれど、私は人間よ」

やはりにこーっと穏やかな言葉を聞き取り、そこでやっと猫は彼女がジュゴンであるということが認識できた。

同時に彼女がラルフの姉であるということも。

「ってことはやよ、アンタがラルフのお姉さん……なんやな?」
「ラルフ……?ラルフがここにいるの?」
「そやで。ラルフと一緒にアンタのことを探しとったんさ」

きょとんと、信じられないとでもいいたげな表情を出したジュゴンに、手短に状況説明を行う。
彼女は暫し何か吃驚したようであったが同時に安心したように、

「よかった……無事だったようで……」

と、胸を撫で下ろした。直後。


「ジュゴンのおねーちゃーん!!」
「ええ……またゴース!?」

声の先に見たものに、猫が嫌そうに声を漏らす。

視界に10、15ほどのゴースがこちらに向かってやってくるのが捉えられる。

「あら、あなたさっきのオバケさん?」

が、ジュゴンは何の驚きもなくゴースに向かって話しかける。
その行動に猫が驚いてしまう。

「また喧嘩したの?もうダメだって言ったでしょ?」
「違うよ~他の子だもん!グラエナとブラッキーがいきなり襲ってきたんだよ!」

まだ幼いであろうゴースが猫などお構いなし――というより眼中にないようだ――にジュゴンにそう愚痴る。
そのままその後ろを見ると、所々怪我したゴース達が確認できた。

「はい、それくらいならすぐに直せるから、皆動かないでね?」

「え……ええ?」

ジュゴンはそのままゴースたちに近づいて、猫のときと同じように治療を開始し始めたのだ。
もう猫も何を言っていいのか分からない。

「はい終り……もう絶対喧嘩しちゃダメよ?」
「だからー喧嘩じゃないんだって!」

さっきのゴースがじれったくなったように笑って返す。
よくよく聞くと、そのゴースの声は最初猫が聞き取ったジュゴンと一緒に会話していた声と同一である。
そんなことを考えて入間にもゴースたちは退散し、ジュゴンはそれに小さく手を振っている。


「あ、あのさぁ……」
「あ、何かあった?」

さっきの行動に猫が驚いていたという事にすら気付かずに、彼女は怪訝そうに小首を傾げる。
しかしすぐに、思い出したかのようにポン、と手をたたく。

「あ、ラルフ!そうそう、あの子どこにいるのかしらねぇ?」

満足げに言って、猫の答えも待つ。
まさか自分が一方的に避けてはぐれた、などとは言えそうになく、返事に困っていたその時だった。


「猫!この辺りにゴースが来なかったか?」
「……あ、クサリ!」

背後からのそれに振り向くと、やはりクサリを確認できた。
という事はラルフもいるのだろう。
ゴースがさっき「グラエナとブラッキーが――」といっていたからだ。
「あ、ネコさんのお友達?そっか、あなたも喧嘩しちゃったのね」
「……お前」

クサリは早くもジュゴンを見つけたが、ジュゴンはクサリの怪我を見つけるなり駆け寄る。
そしてやはり、一人何か呟くと早速治療を開始してしまう。



「……ああ、こんな所にいたのか」
「ラ、ラルフ……あのさぁ」

少ししてクサリと同じ場所から現れた彼に謝るべきかと思ったが、当のラルフは全く気にしていなかったよう。
それよりクサリの側の、例の彼女に目を移す。

「これで大丈夫。森の中でも走り回ってたの?」

木ですったような傷ばかりだったから、と言いながら、クサリに尋ねていた。
クサリは少々いきなりの彼女の行動に言葉を失いつつも、ゆっくりと頷く。
それを見るなり、猫の隣で大きく呆れたような溜息がつかれた。

「全く変わってないな……」
「え、何がなん?」
「姉さんの悪い癖だ」

彼がそれを呟くと、ああ、すぐ治療する事か、と猫も簡単に理解できたよう。
ラルフはどこか安心したように見えたが、やはり愛想が悪い部分は変わりはしなかった。

「……このジュゴンはアネシア姉さんで間違いないだろ」

猫に彼女の名を伝えて、ラルフはアネシアの元へ歩み寄った。
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