小説置き場。更新は凄く気まぐれ。
(夜が目前に迫る中、猫とタンゴはとある一行と出会いますが――)
「あ、え…えと…うぅ…」
「…はい?」
どんな化け物が潜んでいるのかと思いきや、猫の視界に映ったのは怯えきって小刻みに震えたエーフィ。
化け物で無いとしても凶暴そうに見えるわけでも無し。猫は疑問符でも浮かんでいるように首をかしげていたが……。
ふと、猫の目に留まったエーフィの尾。なるほど、タンゴが見たというのはこの二又に分かれた尻尾のことだったのだろう。
草むらを隔ててしばし二人の間に沈黙が流れだす。
「猫さん?……どう、ですか?」
茂みの向こうを見つめたまま固まっていたからだろうか。背をかがめたように近寄ってきたタンゴが、小さな囁きの様に尋ねる。
タンゴはその正体が自分と同じように怯えきったエーフィだとは思ってもいないだろう。
「あのなぁ、タンゴ君?」
「はい?」
視線をタンゴに移して言う。
彼は一度普段タンゴがつく様な呆れた溜息を漏らして、
「そんな吃驚することでもないやないの♪見てみぃ、アンタみたいに怯えたこの子の何処がオバケに見える?」
御気楽ないつもの調子でそう言って、再びエーフィのほうへと視線を戻す。
そうしようとした、すぐ、瞬間。
「かえんほんしゃあぁッ!!」
「うわっ!?な、何なん!?」
ぼう。と、振り向きざまの顔のすぐ横を、まるで音も無いような速さで過ぎて行った火の様な物。明らかにまだ頬には熱い感じが残っている。
恐る恐る、といった感じで振り向いてみた先に。
自然破壊の原因にでもなるんじゃないかとでも言いたいくらいに、真っ黒に焦げてプスプスと弾ける様な音を立てている木の幹。
……と思われるもの。
「てめぇらッ!!ユリウスに何しやがった!?」
その場を掻き消す様に響く、怒声。
彼らが振り向いた先に移ったのは…溢れんばかりの怒りのオーラを纏ったマグマラシだった。
▼9話 遭遇 夜の森のリリーフ
「ブライ……?」
ユリウス、と呼ばれたエーフィはそう、猫に向かって攻撃を仕掛けたマグマラシに呟く。
相変わらず怯えたままの状態は変わってはいないが、それを見たブライはすぐさまユリウスに駆け寄る。
「ユリウス!怪我とかないだろな?大丈夫か!?」
「ぼ、僕、は……大丈夫だけど……」
やはりおどおどとした調子で言い、そのまま言葉を続けようとしていたがそれよりも先、ブライはキッと猫に睨みつけて、
「てんめぇ……ただで済むと思うな!?何やりやがったか言ってみろ!!」
少女にしか見えないその姿から発せられる言葉は、全て少年とも思えるようなきつい口調ばかり。
ばっと立てた指を猫に突き付けて返事を待つ。
「えぇとー……ブライ、ちゃん?」
それには思わず猫も♀であるのか疑ってしまう。尋ねるように開口するが目の前の相手は怒を纏うまま答えない。
これには猫も何を言えばいいのかが分からない。
とりあえず今の考えを整理して、普段の気楽な笑顔で答える。
「んとなぁ、そのユリウスちゃん?の尻尾にうちのタンゴ君が吃驚して大声出しちゃったんよ。ユリウスちゃんもそれに吃驚して……」
「言い訳は聞きたくねぇッ!!」
しかし猫が説明するも、ブライは聞く耳持たない。聞いてきたのはそっちだろ、と思わず言いたくなる。代わりに続ける、ブライ。
「尻尾に驚いた?馬ッ鹿馬鹿しいぜそんなもん!許さねぇぞお前ら!?」
「で、ですからホントに何もして――うわっ!?」
ザクッ、とタンゴの足元に星のようなものが突き刺さる。ブライが放ったそのスピードスターには『黙れ』と言う意味がこもっているのが伝わってくる。
タンゴはそこで言うに言えなくなり、それを見た猫の顔からもスウと笑い顔が消える。
ユリウスが何か言いたげに彼女を見上げているが、それにすら耳を傾けていない。
「さぁ、どっちが相手だ!?」
「あ、う……ブライ……だか、ら」
そんな様子の相手を見、猫はちらとタンゴに視線を送る。タンゴはそれに気づき、猫が何をしようとしているのか感じ取ったよう。
そして。
「逃げるで!!タンゴ君!!」
「は、はいっ!!」
一瞬、隙を突いて一気に駆け出す。
「あいつ等!?待ちやがれ!」
「だ、ダメ!落ち着いて、ブライ…!」
追いかけようとするブライをようやくユリウスがつかんで止める。
「なんだよユリウス!?お前はいっつもやられっ放しでいいのかよ!?」
しかしブライはというとそんなユリウスに怒ったように言い捨てる。その間にも段々と二人の姿が遠ざかっていく。
ユリウスは放そうとはしないだろう。
なら――
「チィっ……これでも喰らいなッ!!」
彼女は最初に放ったあれよりも格段と威力の高いだろう火炎放射を放つ。途中触れた木々が黒ずんで焼け焦げた匂いを漂わせる。
「猫さんあれ!!」
後を追うように木々を焼き進んでいる火球に気づいたタンゴが目を見開く。
彼らの目に映っているのは一番最初に喰らったものとは桁違いなのだから。
「な……何なんさっきのとはまるで違うやないか!?」
「あんなの喰らうなんてオイラは嫌ですよ!?」
走りながら言ってる間にも火炎放射はすぐそこまで来ている。かといい他の木々が邪魔で横に避けることはできなさそうだ。
しかしこのまま逃げても必ず自分たちはあれの餌食になってしまう。
「あーもう!!どうしろって言うんよ!?」
「んー、こうすればいいんじゃないー?」
ヤケにでもなったかのように叫んだ声に答える様に、落ち着いた返事がする。
突然の第三者はそのまま二人の後ろに空を切って現れた。
「ちょっと目、瞑っててくれるー?」
この緊張した空気を破るほどに落ち着きのんびりした声で、大きな炎の塊を見つめて二人に言うフライゴン。
気のせい?とでも思えるように不自然と、フライゴンの周りを渦巻き始めた風。
「な、なんでや?ってかアンタ一体」
「じゃないとー」
猫の問いに答えようとはしなかったが、その代りにさっきより強くなった風と共に土煙が舞う。
それに思わず猫も瞼を閉じてしまう。
「土が目に入っちゃうから気をつけてねー」
風が痛い。瞳を閉じていても分かる。きっと多量の土が一緒に吹き荒れているのだろう。
猫とタンゴはそれの為に直接見ることはできなかったが、炎と竜巻の衝突は確りと耳の奥にまで届いていた。
そしてそっと伺うように目を開いた先に。
「んー、もういいよー。ごめんねー驚かせちゃってー」
後に映っていたのはやんだ風とやはりのんびりとしたフライゴンだけで、火の粉と思えるようなものは何一つとして見当たらなかった。
フライゴンの砂嵐が見事にブライの火炎放射を防いだ後だった。
「あ、ありがとうございます!!えっと、あなたの名前は?」
「あ、僕ー?僕はクビャク。それより今はこんなことしている場合じゃないみたいだねー?」
「?…どないかしたん?」
クビャクは軽く一礼した後何処か、上を見上げた。猫とタンゴには彼が何をしようとしていたのかは最初は分からなかったが。
さっきまで弱くも伸びていた夕日がスウゥっと、葉の隙間から姿を消した。
とたん、いきなり森は暗闇に襲われて、そこでやっと猫は理解できた。
「『幽霊の森』の始まりや……」
「そうだねー。ユリウスちゃんにブライちゃーんー!」
彼は視線を落とすと向こうに呼びかける。
そこで猫とタンゴはやっと、彼が彼女らの仲間であると言うことに気がつく。
「迷惑ばかり掛けちゃうんだけどー、協力してくれないかなー?猫君にタンゴ君ー?」
「え、なんでオイラの名前知ってるんですか?」
しかし「詮索は後ー」とその問いに答えることは無く、ユリウスとブライがこちらに来ているのを確認してクビャクは微笑んだ。
「じゃないと……君たちも捕まっちゃうよー?」
何に?とでも聞きたくなるような発言。
そのすぐ後に彼ら皆に聞こえた、何かの楽しそうな嘲笑い。それが徐々に増えていることは音量でわかる。
そして彼らの周りにもゆらり、とその声の主たちが姿を現した。
「ゴース達に、ねー……」
闇夜の鬼ごっこの時間が始まった。
「…はい?」
どんな化け物が潜んでいるのかと思いきや、猫の視界に映ったのは怯えきって小刻みに震えたエーフィ。
化け物で無いとしても凶暴そうに見えるわけでも無し。猫は疑問符でも浮かんでいるように首をかしげていたが……。
ふと、猫の目に留まったエーフィの尾。なるほど、タンゴが見たというのはこの二又に分かれた尻尾のことだったのだろう。
草むらを隔ててしばし二人の間に沈黙が流れだす。
「猫さん?……どう、ですか?」
茂みの向こうを見つめたまま固まっていたからだろうか。背をかがめたように近寄ってきたタンゴが、小さな囁きの様に尋ねる。
タンゴはその正体が自分と同じように怯えきったエーフィだとは思ってもいないだろう。
「あのなぁ、タンゴ君?」
「はい?」
視線をタンゴに移して言う。
彼は一度普段タンゴがつく様な呆れた溜息を漏らして、
「そんな吃驚することでもないやないの♪見てみぃ、アンタみたいに怯えたこの子の何処がオバケに見える?」
御気楽ないつもの調子でそう言って、再びエーフィのほうへと視線を戻す。
そうしようとした、すぐ、瞬間。
「かえんほんしゃあぁッ!!」
「うわっ!?な、何なん!?」
ぼう。と、振り向きざまの顔のすぐ横を、まるで音も無いような速さで過ぎて行った火の様な物。明らかにまだ頬には熱い感じが残っている。
恐る恐る、といった感じで振り向いてみた先に。
自然破壊の原因にでもなるんじゃないかとでも言いたいくらいに、真っ黒に焦げてプスプスと弾ける様な音を立てている木の幹。
……と思われるもの。
「てめぇらッ!!ユリウスに何しやがった!?」
その場を掻き消す様に響く、怒声。
彼らが振り向いた先に移ったのは…溢れんばかりの怒りのオーラを纏ったマグマラシだった。
▼9話 遭遇 夜の森のリリーフ
「ブライ……?」
ユリウス、と呼ばれたエーフィはそう、猫に向かって攻撃を仕掛けたマグマラシに呟く。
相変わらず怯えたままの状態は変わってはいないが、それを見たブライはすぐさまユリウスに駆け寄る。
「ユリウス!怪我とかないだろな?大丈夫か!?」
「ぼ、僕、は……大丈夫だけど……」
やはりおどおどとした調子で言い、そのまま言葉を続けようとしていたがそれよりも先、ブライはキッと猫に睨みつけて、
「てんめぇ……ただで済むと思うな!?何やりやがったか言ってみろ!!」
少女にしか見えないその姿から発せられる言葉は、全て少年とも思えるようなきつい口調ばかり。
ばっと立てた指を猫に突き付けて返事を待つ。
「えぇとー……ブライ、ちゃん?」
それには思わず猫も♀であるのか疑ってしまう。尋ねるように開口するが目の前の相手は怒を纏うまま答えない。
これには猫も何を言えばいいのかが分からない。
とりあえず今の考えを整理して、普段の気楽な笑顔で答える。
「んとなぁ、そのユリウスちゃん?の尻尾にうちのタンゴ君が吃驚して大声出しちゃったんよ。ユリウスちゃんもそれに吃驚して……」
「言い訳は聞きたくねぇッ!!」
しかし猫が説明するも、ブライは聞く耳持たない。聞いてきたのはそっちだろ、と思わず言いたくなる。代わりに続ける、ブライ。
「尻尾に驚いた?馬ッ鹿馬鹿しいぜそんなもん!許さねぇぞお前ら!?」
「で、ですからホントに何もして――うわっ!?」
ザクッ、とタンゴの足元に星のようなものが突き刺さる。ブライが放ったそのスピードスターには『黙れ』と言う意味がこもっているのが伝わってくる。
タンゴはそこで言うに言えなくなり、それを見た猫の顔からもスウと笑い顔が消える。
ユリウスが何か言いたげに彼女を見上げているが、それにすら耳を傾けていない。
「さぁ、どっちが相手だ!?」
「あ、う……ブライ……だか、ら」
そんな様子の相手を見、猫はちらとタンゴに視線を送る。タンゴはそれに気づき、猫が何をしようとしているのか感じ取ったよう。
そして。
「逃げるで!!タンゴ君!!」
「は、はいっ!!」
一瞬、隙を突いて一気に駆け出す。
「あいつ等!?待ちやがれ!」
「だ、ダメ!落ち着いて、ブライ…!」
追いかけようとするブライをようやくユリウスがつかんで止める。
「なんだよユリウス!?お前はいっつもやられっ放しでいいのかよ!?」
しかしブライはというとそんなユリウスに怒ったように言い捨てる。その間にも段々と二人の姿が遠ざかっていく。
ユリウスは放そうとはしないだろう。
なら――
「チィっ……これでも喰らいなッ!!」
彼女は最初に放ったあれよりも格段と威力の高いだろう火炎放射を放つ。途中触れた木々が黒ずんで焼け焦げた匂いを漂わせる。
「猫さんあれ!!」
後を追うように木々を焼き進んでいる火球に気づいたタンゴが目を見開く。
彼らの目に映っているのは一番最初に喰らったものとは桁違いなのだから。
「な……何なんさっきのとはまるで違うやないか!?」
「あんなの喰らうなんてオイラは嫌ですよ!?」
走りながら言ってる間にも火炎放射はすぐそこまで来ている。かといい他の木々が邪魔で横に避けることはできなさそうだ。
しかしこのまま逃げても必ず自分たちはあれの餌食になってしまう。
「あーもう!!どうしろって言うんよ!?」
「んー、こうすればいいんじゃないー?」
ヤケにでもなったかのように叫んだ声に答える様に、落ち着いた返事がする。
突然の第三者はそのまま二人の後ろに空を切って現れた。
「ちょっと目、瞑っててくれるー?」
この緊張した空気を破るほどに落ち着きのんびりした声で、大きな炎の塊を見つめて二人に言うフライゴン。
気のせい?とでも思えるように不自然と、フライゴンの周りを渦巻き始めた風。
「な、なんでや?ってかアンタ一体」
「じゃないとー」
猫の問いに答えようとはしなかったが、その代りにさっきより強くなった風と共に土煙が舞う。
それに思わず猫も瞼を閉じてしまう。
「土が目に入っちゃうから気をつけてねー」
風が痛い。瞳を閉じていても分かる。きっと多量の土が一緒に吹き荒れているのだろう。
猫とタンゴはそれの為に直接見ることはできなかったが、炎と竜巻の衝突は確りと耳の奥にまで届いていた。
そしてそっと伺うように目を開いた先に。
「んー、もういいよー。ごめんねー驚かせちゃってー」
後に映っていたのはやんだ風とやはりのんびりとしたフライゴンだけで、火の粉と思えるようなものは何一つとして見当たらなかった。
フライゴンの砂嵐が見事にブライの火炎放射を防いだ後だった。
「あ、ありがとうございます!!えっと、あなたの名前は?」
「あ、僕ー?僕はクビャク。それより今はこんなことしている場合じゃないみたいだねー?」
「?…どないかしたん?」
クビャクは軽く一礼した後何処か、上を見上げた。猫とタンゴには彼が何をしようとしていたのかは最初は分からなかったが。
さっきまで弱くも伸びていた夕日がスウゥっと、葉の隙間から姿を消した。
とたん、いきなり森は暗闇に襲われて、そこでやっと猫は理解できた。
「『幽霊の森』の始まりや……」
「そうだねー。ユリウスちゃんにブライちゃーんー!」
彼は視線を落とすと向こうに呼びかける。
そこで猫とタンゴはやっと、彼が彼女らの仲間であると言うことに気がつく。
「迷惑ばかり掛けちゃうんだけどー、協力してくれないかなー?猫君にタンゴ君ー?」
「え、なんでオイラの名前知ってるんですか?」
しかし「詮索は後ー」とその問いに答えることは無く、ユリウスとブライがこちらに来ているのを確認してクビャクは微笑んだ。
「じゃないと……君たちも捕まっちゃうよー?」
何に?とでも聞きたくなるような発言。
そのすぐ後に彼ら皆に聞こえた、何かの楽しそうな嘲笑い。それが徐々に増えていることは音量でわかる。
そして彼らの周りにもゆらり、とその声の主たちが姿を現した。
「ゴース達に、ねー……」
闇夜の鬼ごっこの時間が始まった。
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